学園祭-前半-(20)

□政宗×幸村
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(まずい……)



幸村は今、16年と少しの人生の中で最大のピンチに瀕していた。これは四面楚歌というやつだろう。

良い言葉でなければそれに直面した時の心情というのもとても口で表せるようなものでもなく、表情には出さないものの心の中で地団駄を踏んだ。

どうして。どうして己がこんな目に遭わなければいけないのか。平気そうに見えて、心配性の恋人はある時こう言った。

『アンタは無防備過ぎる』

それが、どんな事を差しているのか全く気付かずに今日まで生きてきた。だがどうだろう。この、己を囲む者達の目が、まるで腹を空かせた獣のようにぎらついているのは。

おれは肉じゃないし美味くもない。だから退いてくだされ。そう言えば彼らは退いてくれるだろうか。



「………何用でございますか」

「用?特に用事はねぇんだが…」

なぁ?と幸村を取り囲む者達のうち、リーダー格と思われる男が他の男達に声をかける。その彼らの胸に光る校章の色、黒。幸村のものとは違う…その色を付ける事を許されているのは、この学園内で3年生のみだ。

見たところ派手な髪色やらじゃらじゃらと装飾品を着飾っており、どう考えてもまともな生徒じゃない。

よりにもよってこんな上級生に目を付けられたとは…幸村は己の不運を恨んだ。


今日は恋人と、学校帰りに買い物に行く約束をしていた。でも今日はおれ、部活のミーティングがあるんだ。そう言えば、待っててやるからちゃんと話聞いてこいよと教室に居残ってくれていた。新しいユニフォームが出来たとかで、それを取りに職員室に行ったとき、通り過ぎた教室の中で本を読んでいたのを目撃している。今もきっと、幸村の戻りを待っている筈だ。早く戻らなければ。

「用がないのでしたら、失礼致します」

「…待ちな」

「ッ!…離してくだされっ!!」

力強い手に手首をぎちぎちと掴まれ、肩にかけて痛みが走る。振り切ろうとしてもそう簡単に解かれるものではない。

「離してくだされ、だと。可愛いもんだねぇ!」

「ホントに女みてぇな顔してんな…これがあの、あいつのオンナか」

男達と幸村の距離がぐっと縮まる。

あいつ?女??こいつらの言っている事がまったく理解できない。そんな暇を与えられる事もなく、生温かい息が耳元に吹き付けられた。ぞわぞわと鳥肌が立つ。

身を捩って逃れようとしても手首に食い込んだ爪が痛くて、とうとう幸村の身体は壁際まで追い詰められた。校舎から離れた部室の裏手、日陰の寒さが身に染みる。どれだけ叫べば校舎まで届くだろうか。

 
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