学園祭-前半-(20)
□政宗×幸村←佐助
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「佐助さすけー!」
クラスに談笑の花が咲くお昼時、その花さえも吹き飛ばしてしまう勢いで己の名を呼ぶ人がいる。
それが誰かなんて見なくても分かってしまう程特徴的な高く掠れた声に導かれるままに、2人分にしてはやや大き過ぎる弁当箱を片手に教室を出た。
「やだ、もー俺の教室来ちゃダメだって言ったでしょーが」
「うう…すまぬ。腹が減って待ちきれなかったのだっ」
そう言って佐助を見上げるのは、今年の4月にこの学校へ入学したばかりの従兄弟、幸村。
親戚の中で歳も近く、面倒見のいい佐助に甘えん坊の幸村はすっかりと懐いていた。たった一年しか同じ学校に通えないのはくやしいけれど、早く生まれてしまったのだから仕方ない。
その腹が減ったと鳴く雛鳥は、今日も佐助お手製の弁当を待ち望んでいた。育ち盛りの(自分はいい、少食だから)幸村の事を考えて、ボリューム満点・栄養・愛情たっぷり詰め込んだそれは毎朝30分かけて作るもの。
(学食より、俺様の弁当の方が美味しいからね!)
加えてそれを食べてくれる幸村がうまうまとご満悦ならば、貴重な睡眠時間を削ってでも喜ぶ顔を見ていたい。
「旦那、次はさ」
「Oh,so cute!」
「ゲッ!!」
俺が迎えに行くから、ちゃんと待っててよね!と釘を刺す前に、背後からやたらと流暢な英語が飛んでくる。
「目ぇ合わせちゃダメだよ!
孕ませられるっ」
「は、はらま…??」
慌てて幸村を背後に隠し、愛想笑いを浮かべるとナンノゴヨウデショウカ?と片言で話しかけた。
まだ太陽輝く昼だというのに、どこか暗い、夜のような雰囲気を纏った隻眼の男がそこに居る。佐助の在籍するクラスで、最も成績が良くプライドが高く且つ素行が最悪な生徒、政宗。
2年次には半年の短期留学を経てこの学校に戻ってきた彼は、まだその名残があるのか所々で英語が出る。それがまた佐助にとってはうざったく、厄介な相手であった。