学園祭-前半-(20)
□久秀×幸村
1ページ/5ページ
「おーい幸村ァ!悪いんだけど昨日の分のノート見せてくれよっ」
「もう…またでござるか?元親殿。今回だけでござるよ」
「今回だけなど…お前はいつもそう言うて、この馬鹿にノートを貸してやっているではないか」
冗談交じりに会話しながら、今日もごくごく普通の一日が始まった。
半年の大学生活の中で得た親友と肩を並べ、本日も勉学に勤しむ。しかしその親友の片方はどうにも寝坊癖が抜けなかったりで、授業に出てこない日もよくある。その度に今回みたいなことを言ってはついついノートを貸してしまうお人好しの学生・幸村は、自分のバックの中からそれを取り出すと「どうぞ。お礼はケーキで」と差し出した。
「じゃ、今度の土曜バイキング連れてってやるよ。バイト休みだし」
「誠でござるか!」
「ほう、バイキングか。我も連れて行け。もちろん貴様の奢りで」
「はー!?何でお前までっ!」
なんて騒いでいる内に、午前の教鞭を執る教授が入ってくる。
その名を松永久秀、専攻は生態工学。米国の超有名大学を主席で卒業し、数々の発明品をこの世に送り出している。栄光輝かしい彼のゼミ生は相当な人数が居て、幸村もその中の一人だった。
「…では本日の授業を始めよう」
滔々と彼は語り始める。
ほぼ走り書きに近い黒板を書き留めるだけでも相当な集中力を要した。この学内の授業で最も難易度のレベルも高く、その内容の濃さたるや半端なものではない。
幸村の左隣に座る親友は、冷静な態度で授業を聞きながらシャープペンを走らせていた。彼ほどの頭の良さがあれば、もっと楽に大学生活を送ることもできただろう。だが残念ながら幸村は中の上どまりだった。とりあえずノートを取ることに専念して、質問なんかは後で聞けばいい。神経質で気難しそうな外見に見えて、あの教授はその実生徒の面倒見が良かった。
(でも、おれ……)
ぴたりと幸村の手が止まる。
同時に心臓が早鐘を打ち始めた。あの教授と幸村の間に、とても他人には口外に出来ない秘密がある。当然、親友どちらにも言っていない。言ってはいけないのだ、こんな事は。