学園祭-前半-(20)

□慶次×幸村
1ページ/5ページ





さっきから、とても熱い視線を感じて仕方がない。


授業中の今、生徒である幸村の方をよそ見できる人間など、この教室にたった一人しか存在していない筈だった。皆目の前のプリントに必死になってシャーペンを走らせている。

筈も何もそのたった一人の熱い熱い視線を浴び続けている幸村は、教科書を読むフリをしながら教卓の方へちらりと目線を向けた。

(ああ…やっぱり見られてるでござる)

その熱い視線の主、前田慶次。

2週間ほど前から幸村のクラスを受け持っている教育実習生だった。その彼が、何故幸村をずっと見ているかなんて。

(恥ずかしいでござる…慶次殿)

そんな理由は百も承知。
2人は恋人同士だからだ。

運が良いのか悪いのか、昨今の大学生が教育実習で母校を担当するケースは少なくはない。慶次は幸村の通う学校の先輩にあたる人物で、その例にしかと当てはまって母校へとやってきたのだ。

大雑把な授業内容だけれども、面白おかしく教えてくれるので生徒の評判は上々。放課後まで人だかりができるくらいに。

(でも俺は)

慶次先生との約束事。


学校に居る間は、恋人同士だとバレないように過ごす事。


男と付き合ってるなんて、思われたら幸ちゃんは嫌だろ?と慶次の勧めで取り付けられた約束だ。世間の目はまだまだ冷たいし、あと1年と少しの高校生活で後ろ指を差されても…と慶次なりに幸村を庇うつもりで言った言葉だった。

しかし、いざ実習期間が始まってみると。

平日だけではなく、土日も慶次に逢えない事が多くなった。大学に提出しなければいいけないレポートなど、色々忙しいらしい。そんな訳だから学校に居る時間しか一緒に居られないけれど、名前も呼んでもらえない、他愛ない話で笑い合えない。

故に寂しさばかり募っていた。

「真田君」

「は、はい」

「どうかしたのかい?気分が悪いなら保健室行きなよ」

「いえ…大丈夫で、…す」

危うくいつもの調子で答えてしまう所で、なんとか敬語に戻せた。教科書から目だけ出すようにしていたから、気持ち悪くなっているのかと勘違いされてしまったのだろう。もう慶次はこちらを見ていない。


授業が終わるまであと15分、とりあえず目の前のプリントに取り掛かることにした。

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ