学園祭-前半-(20)
□慶次×幸村
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さっきから、とても熱い視線を感じて仕方がない。
授業中の今、生徒である幸村の方をよそ見できる人間など、この教室にたった一人しか存在していない筈だった。皆目の前のプリントに必死になってシャーペンを走らせている。
筈も何もそのたった一人の熱い熱い視線を浴び続けている幸村は、教科書を読むフリをしながら教卓の方へちらりと目線を向けた。
(ああ…やっぱり見られてるでござる)
その熱い視線の主、前田慶次。
2週間ほど前から幸村のクラスを受け持っている教育実習生だった。その彼が、何故幸村をずっと見ているかなんて。
(恥ずかしいでござる…慶次殿)
そんな理由は百も承知。
2人は恋人同士だからだ。
運が良いのか悪いのか、昨今の大学生が教育実習で母校を担当するケースは少なくはない。慶次は幸村の通う学校の先輩にあたる人物で、その例にしかと当てはまって母校へとやってきたのだ。
大雑把な授業内容だけれども、面白おかしく教えてくれるので生徒の評判は上々。放課後まで人だかりができるくらいに。
(でも俺は)
慶次先生との約束事。
学校に居る間は、恋人同士だとバレないように過ごす事。
男と付き合ってるなんて、思われたら幸ちゃんは嫌だろ?と慶次の勧めで取り付けられた約束だ。世間の目はまだまだ冷たいし、あと1年と少しの高校生活で後ろ指を差されても…と慶次なりに幸村を庇うつもりで言った言葉だった。
しかし、いざ実習期間が始まってみると。
平日だけではなく、土日も慶次に逢えない事が多くなった。大学に提出しなければいいけないレポートなど、色々忙しいらしい。そんな訳だから学校に居る時間しか一緒に居られないけれど、名前も呼んでもらえない、他愛ない話で笑い合えない。
故に寂しさばかり募っていた。
「真田君」
「は、はい」
「どうかしたのかい?気分が悪いなら保健室行きなよ」
「いえ…大丈夫で、…す」
危うくいつもの調子で答えてしまう所で、なんとか敬語に戻せた。教科書から目だけ出すようにしていたから、気持ち悪くなっているのかと勘違いされてしまったのだろう。もう慶次はこちらを見ていない。
授業が終わるまであと15分、とりあえず目の前のプリントに取り掛かることにした。