学園祭-前半-(20)
□元就×幸村
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「ふぃ〜〜〜〜…子供の相手も大変でござるな…」
こぢんまりとした室内で漏らした呟きは、誰に受け止められる事もなく流れていった。
着慣れないエプロンを解き、自分に宛がわれている机に腰を下ろす。もう、手も足も何もかもクタクタだ。まだ昼にもなっていないというのに、この有様。体力には自信があったけれど、やたらと気を遣うし加減をしなければいけない仕事は思いのほかハードで難しい。
自分の腕を枕に、額を乗せればグキッと肩がいやな音を立てる。ああ、俺まだ22なんだけどな…この数ヶ月でだいぶ老け込んでしまったかと暗い影を落とした。
大学を卒業し、小さい頃からの夢であった保父になったばかりの新米先生・真田幸村は、朝の登園と共にありとあらゆる園児に腕を引っ張られ、おれとあそぶんだ、いやおれと、と仕舞いには喧嘩し始めるやんちゃな園児達に頭を悩まされていた。
お前が新米だから、園児も甘く見てるんだろうと先輩の片倉は指摘したが、いくら園児達に言い含めたところで少しも聞いてくれない。
むしろ、怒っても泣かない…逆に言えば子供にしては性質の悪い、ちょっと変わった子供達が今の幸村の担当。
根は素直で良い子たちなんだけれども、どうにも手に負えない気がする。
「おれには…この仕事向いてないのでござろうか…?」
はぁ…とまたひとつ溜め息を漏らし、おやつ代わりに持参しているチョコレートに手を伸ばす。いつもは美味しいと感じるそれも、足りなくなった糖分の補充ぐらいにしかなっていない。
今は他の先生が看てくれているが、あと少ししたら戻らなければ。
「真田」
「は……あ、片倉先生。
どうかしたのでござるか?」
と、その代わりに看てくれている筈の片倉が職員室に入ってきた。
いつにも増して深々と刻まれた眉間の皺は、どこをどう見たって幼稚園の先生には見えない。その左頬の傷も不慮の事故だとは言うが、初対面ではさすがにきつかった。俺は就職する場所を間違えてしまったのではないかと冷や汗を流したくらいに。
「ござるか?じゃねぇ。お前のクラス大変な事になってるぞ」
「え?」
「休憩は終わりだ。ちょっとこっち来てみろ」
ちょいちょいと人差し指で誘導されて、エプロンを着付けながら慌しく休憩を終える。
自分のクラスは責任を持って看ろ、というのが片倉の信念なので何か問題が起きたとしても幸村自信が解決しなければいけない。そう言ってもただ放り投げる人ではなくて、助言もしてくれるし相談にも乗ってくれるからとても心強い。