学園祭-前半-(20)
□元親×幸村
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もしも、なんて言葉を使うのは自分らしくないかもしれない。
こんなにも不安になるなど、一年前の自分には考えられもしなかった。
卒業を3ヵ月後に控えた今、特に思い出を残す予定ではなかったこの学校が楽しくて仕方ない。しかし、それと同じくして寂しさが胸に押し寄せてくる。
こんなに、誰かを想って窮屈になるなど生まれて18年、一度たりとも感じた事はなかったのに。それは片恋であるが故の仕業なのか。
想いを打ち明けても、未だ叶うことのないこの恋の行方は一体?
―――――…
(…っとに、やる気でねぇ)
目の前に山積みにされた参考書の類を一瞥し、深い溜め息を吐くと元親は机に突っ伏した。
卒業間近の今、卒論ならぬ卒業研究の課題が高校生活最後のありがたくもないイベントにされている。他聞に漏れず、元親にもその使命が科せられていた。
取り敢えず当たり障りの無い分野に手を出したものの、一向に捗らない。この学校に入学して一度も入ったことのなかった図書室は嫌味なほど静かで、元親以外の3年生の姿もちらほらと見受けられる。皆、卒業しようと必死なのだ。
「あ」
(………!)
そのまま下げていれば昼寝でもしそうなくらいの頭を持ち上げ、今し方放たれた声の主を探す。興味がなければ声を掛けられたところで無視を決め込む常であるが、この声は、これだけは聞き逃してはいけない。
「め、」
「…珍しいとか言うんじゃねぇ」
むっくりと顔を上げれば正面にいた後輩の、物珍しそうに己を見る目にまず怒りを覚える。が、その瞳に映るものが自分だけであるというこの優越感…
好いて好いてやまない後輩の、真田幸村の視線を独り占めしていると思えば、そんな怒りなどすぐに頭を引っ込めてしまう。