学園祭-前半-(20)
□佐助×幸村
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学校なんて。
つまらないとか、何で嫌がってまで勉強させられんだろうだとか、思う人間はこの世に五万と居るだろう。
(あーもー…早く帰りてぇ)
学校にやや遅刻気味で着いて早々、強運で引き当てた窓際最後尾の席に着いた赤髪の学生は、学校なんてくだらないとぼやく、そんな人間のひとりだ。
第二まで全開にしたシャツの胸元、やる気のなさを表すかのようにおざなりに結ばれたネクタイ。件の赤髪はやはり校則違反もいいところ。教師に指摘されようとお構いなし。退学にするならすればいい。どうせこの学校に未練などありはしない。
緑色のiPodを鞄に仕舞いながら、とりあえずは毎日持ち歩いているペンケースを机の上に出した。今日は朝一から眠くなるようなメニュー。
バイト疲れの濃い眼を擦りながら、HRぐらいは起きててやるかと立て肘をつく。
担任の織田は今日から産休で、代理の教師が来る予定だった。何でも校長直々に推した教師らしく、一体どんな輩が担任になるのかと周囲のクラスメイトは楽しそうに談笑している。
そろそろ、HRの鐘が鳴る。どんな奴がこのクラスの担任になろうと、赤髪の学生…猿飛佐助にはなんら興味のない話だった。
(誰が来たって、変わんねぇよ)
切れ長の目は面白くなさそうに細められ、冷めた視線は黒板の上にある時計を映した。
時刻は今、8時45分。
あと6時間以上もここに拘束される。だるい、眠い。それだけが佐助の脳内を占めていた。今日はバイトが休みだから、早く帰って爆睡したい。
「…うおおおおおぉぉッ!!」
「っ、何だァ?」
HRの鐘が鳴り始めると同時に、廊下が妙に騒がしくなる。他所のクラスの生徒が遅刻しかけて猛ダッシュでもしているのか。その経験が無きにしも非ずな佐助は、廊下の方に向けていた視線を逸らそうとした。
その時。
「皆、すまぬ!遅くなった!!」
ガラッ!と勢い良く前列のドアが開かれ、ひとりの男が飛び込んでくる。
教台の上に持っていた荷物その他諸々を下ろすと、あ、まだ閉めておらなんだと全開のドアを閉めに戻り、唖然としている生徒の前でコホンとひとつ咳払い。
「それがし、真田幸村でござる。織田先生の代わりに赴任してきた故、皆、今日からよろしゅう頼む!!」
まるで生徒にしか見えないような童顔をした自称教師は、満面の笑みでそう言ったのだった。