07/24の日記
21:32
慶幸B
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「ふおおぉ…!すごい人手でござるなぁ!」
「だろ?」
賑やかな街、我を忘れて踊る人々。担がれた神輿が威勢のいい掛け声と共にいくつも通り過ぎる。菓子を片手に駆け回る子供はとても楽しそうで、今が戦乱の世である事など本当に幻のようだった。人、人、人で多い尽くされた通りに面した茶屋では、今が稼ぎ時とばかりに店の主人は大忙しだ。
上田でも祭りの類はあるけれども、こんなにも多くの人が溢れている祭りなど見たことがない。もう一度すごいでござるなぁと呟いて、さて、どうしたものかと幸村は慶次と視線を合わせた。
「それがし、不慣れでござるゆえ」
「まっかせときなって!俺が案内してやるよ」
祭りで高揚した気分に、隣に居てくれるのは幸村。これで慶次の機嫌が悪くなる訳がない。
自分よりもふた回りは小さいであろう幸村の手を握り締めると、今にも踊りだしそうな勢いで一歩踏み出した。それにつられて幸村も喧騒の中に飛び込む。
「人多いから、逸れないように」
「っで、でも…」
「大丈夫だって!皆祭りに夢中で気付いちゃいないよ」
恥ずかしいからと離れてしまいそうな手を引いて、人込みを掻き分けて進む。なんだかんだ言いつつも気になるのは露店の方か。つい、と握った手に負荷がかかる度、振り向けどその目はどうしたって慶次を見てくれてはいない。
「さっきのお詫びに、ほんとに好きなの買ってあげるから」
団子10本で良かったんだっけ?からかう様に尋ねてみれば、旅籠での遣り取りを思い出したのかパアッと表情を輝かせた。
やっぱり俺、甘味には勝てそうにないかも…と肩を落とすものの、やはりこうでなくては幸村らしくない。
「では、団子を…いや、こちらの林檎飴もうまそうでござるな…」
「じゃあどっちも買っちゃおう」
「えっ!りょ、両方は悪いでござるよ。佐助から、小遣いも貰うてきてるし…」
なんとなく聞き捨てならないような台詞を言った気もしないが、男に二言はねぇんだから買ってあげると、幸村が視線を注いでいた餡のたっぷりのった団子と小振りの林檎飴を露店の店主から受け取る。
よう兄さん、可愛い子連れてるね!とやはり女子に間違えられた幸村は、それがしは男でござる!と言いかけてやめた。右手はまだ慶次と繋がったままだ。
「団子は戻ってからでいいね?」
「う、うん。大丈夫」
「???」
急に変わった幸村の言葉遣いに、慶次は疑問に思った。が、その理由はなんとなく分からなくもない。
けれど、女子に間違えられるのが嫌ならこの格好もしなければ良かったのに。恥ずかしい思いをしてまでも着てくれたこと自体が奇跡だ。手を繋ぐのだって絶対に嫌だと言われれば無理にそうしたりはしなかった。慶次の我侭を、許してくれているのだろうか。
つづく
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