07/23の日記
21:13
慶幸A
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「あ、待って」
「?」
「俺にやらせて。大丈夫、自分ので慣れてるからさ」
指通りのいい尻尾を櫛で梳き、ひとつに纏める。それをいつもの位置ではなく、横にずらした耳の後ろでくるりと輪を作った。
「っく、ふふ…っ」
「くすぐったい?」
項にかかる尻尾の先がむず痒いのだろうか。くるくるくるくる、輪の形から幸村の大好きな団子みたいに丸くなるまで髪を纏めてから、解れないように横から簪を差す。
「はい、出来たよ。どう?」
手鏡を持たせて、その中を覗き込ませる。すると、予想していた通りに幸村の顔が赤くなった。
それはそうだ、女子がするような髪型にされてしまったのだから。幸村がその団子を見ようとする度、わざと垂らした後れ毛が首筋をくすぐる。
この髪型にさせてみて思ったけれど、とても項の線が綺麗だ。普段はあの暑苦しい布地に覆われていて見ることが出来ないだけ、妙な新鮮さがあった。無論傷一つ無く、思わず痕を付けてしまいたくなるような。
「こ、こ、これでは余計女子と間違えられるではないかっ!」
「なんだい?前に間違えられた事でもあったのかい?」
「うう…左様にござる…」
どうせ、あのお付きの忍び君がやったんだろうねと何となくだが理由が分かった。こうして慌てる姿とか、恥ずかしがるところとか見ていて飽きない。
(やっぱ可愛いなぁ…幸ちゃん)
思わず押し倒してしまいたくなるのを堪え、そっと後ろから抱き締めてみる。
「俺しか見てないよ」
「慶次殿が見ておられるのなら、それだけで充分でござるっ」
もう、祭りに遅れてしまいますぞ!と恥ずかしさを隠すように勢い良く立ち上がった。その勢いに押されて慶次は後ろにひっくり返る。強かに後頭部を打って、あいたー!と間抜けな声を上げた。
「さぁ、行きますぞ!」
一応はその格好で出掛ける事を了承してくれたのだろうか。だがその頬はむくれたままで、これは団子10本どころの機嫌取りじゃ間に合いそうにない。まぁ、こういう子供っぽいところも可愛いんだけど…なんて考えているうちに、痺れを切らしたか幸村がくるりと踵を返した。
「……こんな格好、今日限りでござる…」
ぽそりと呟いて、慶次の視線から逃げるように足を進める。その後姿を見失わないように、待ってよ幸ちゃん!と慌しく駆けていった。
つづく
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