07/16の日記

21:11
政幸M
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「呆気ない最期ではあるが…感謝してくれたまえ。最愛の者と同時に天国に送ってやろう」

「…そうはさせないよっ!」

「!何ッ…!?」

突如、轟と渦巻いた黒い竜巻が政宗の視界を遮った。深い闇の中へ吸い込まれそうになる。しかしその中心がぐにゃりと歪むと、松永の姿がそこに映し出された。

いや、違う。これは幻ではない。意味を悟ると、下ろした刀に意識を集中させる。バチッ…と雷電が生まれると同時、切っ先を闇の向こうへと電撃を迸らせた。

「喰らいやがれッ…
………HELL-DRAGON!!!!」

炎を巻き込んだ闇の穴を突き抜けて、電撃が松永を襲う。咄嗟に防御壁を生もうとするが、一歩間に合わず青白い爆雷に包まれた。刀に帯電した雷はそれを持つ腕の中から組織を破壊し、がしゃん!と派手な音を立てて松永が刀を落とす。

「っ…これは堪らぬ…!」

辛うじて左手から炎を生み出し、竜巻の内側へと放とうとする。しかし、佐助の機転によって闇は自らの口を閉ざし、政宗へ向けての反撃は食い止められた。松永はちっと舌を打つと、痺れが残る足を引き摺り天守の外へと身を躍らせる。

「この勝負、卿らに預けておくことにしよう…」

「松永ッてめぇ、逃げんのか!」

「逃げる?勘違いしないでくれたまえ。まだまだ私も、楽しませてもらいたいのでね…

再戦の日まで、精々生き延びてくれたまえ…フハハハハハ!!」

「クソッ…待ちやがれ!!」

政宗が切りつけるより先、壁のように燃え上がった炎に包まれ、松永の気配が絶たれた。程なくして炎は消えたが、そこには人の形ひとつ残っていない。

「畜生…」

ぽつりと呟いて、抜いた刀を鞘に戻した。取り逃がした、それより幸村は助かるのか。うつ伏せに倒れた身体を抱き起こし、細い首筋に手を当てる。規則的に刻む脈拍を確認し、ようやくだが生きる心地がした。

幸村の鼓動が止まる事、それ即ち己の息の根を止められる事と同じ。違う国に生まれ、戦場で出逢い、恋に落ち、身も心もひとつになってしまった今ではもう、半身と言うより我が身と変わりない。ああ、お前が無事でいてくれて良かった。初めから守ってやれなくてゴメンなと、そっと額に唇を落とす。

「っ、く…!」

「猿!大丈夫か」

「痛てて…一瞬気ぃ飛んでたよ…面目ねぇ。旦那は?」

「気を失っただけだ…脈はある」

「そっか……良かった…っ」

助けてくれてありがと。あんた見直したよと、ボロボロになりながらも佐助は笑う。

「毒素が抜ければ、旦那の症状も治まる筈だ。すぐ甲斐に運ぼう」

「ああ、分かった…」

ぐったりしたままの幸村を抱え上げ、未だ残り火が燻る部屋を出る。不気味なほど静まり返った城内に敵の気配は感じられず、松永以下の者も撤退したことを知った。

初めから、遊ぶつもりでそうしていたのかも知れない。逃げられた今となっては分からない。次は無ぇぜ、松永…固く唇を引き結ぶと、宵闇の中を甲斐へ向かうべく馬を走らせた。



つづく
 

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