07/15の日記
20:57
政幸L
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「たす、け………」
戦慄く唇が、"まさむね"と己の名をなぞった。
呼んでいる。
幸村が、助けを求めている。
「思い出せ、俺を…」
政宗の熱を。
獲物を交わした時の熱さを。
「幸村ぁッ!!」
「…ッうああああ!!!!」
叫び声を上げると、己の身体を抱き締めるようにして蹲る。何度か呻いた後、ぷつりと糸が切れたように頸が折れ、そのまま地に平伏した。倒れた身体から一瞬炎が揺らめき、持ち主の意識と共に儚く消える。
その姿に酷く息が詰まった。命の灯火まで消させはしない。こんな場所で終わらせはしない。
「傀儡は所詮、傀儡であったか」
松永の険しい目が、さも面白くなさそうに細められる。玩具に興味を失せた子供がそうするように、がらくたを眺めるように伏せたままの幸村を見た。
「…これでは仕方がない。興醒めだ。この遊びも終わらせることにしよう」
幸村が取り落とした刀を拾い上げ、すぅ…と頭上に翳す。
(まずい……!)
倒れた幸村の意識が無い今、避けることはできない。政宗は刀を握り直し、振り下ろされる寸前で我が身を呈してその間に飛び込んだ。
鍔迫り合いの火花が散り、冷めた瞳をした男と睨み合う。
「卿のような者が…斯くも御執心とはな。竜とはそのように安い生き物だったかね?」
「アンタみてぇな人間にゃ分かりゃしねぇだろうがな…竜にも守りてぇモンはあるんだよ!!」
何よりも守りたい。
命を賭しても惜しくは無い。
ぐっ…と腕に力を込めると、振り下ろされた刀を弾き返す。幸村を庇うように身を乗り出し、爆炎と共に襲い来る追撃を受け止めた。幸村の熱さはこんなもんじゃない…もっと、政宗の心を掻き立てる何かがある。
「では、本気を馳走しようか…」
「何…?」
鳴らした指先から放たれた熱量が、政宗と幸村2人を取り囲むように円を描いた。尚も空気中に煌く粉塵…少しでも触れようものなら、忽ちここは火の海と化すのだろう。政宗は舌打つと、静かに刀を下ろす。呼吸をするたびに肺が軋んだ。
己はいいとしても、幸村を抱えての脱出は少々骨が折れる。見捨て命を生きながらえるか、松永はそれを試そうとしているのだ。
つづく
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