07/13の日記
21:04
政幸J
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「幸村…」
(こんな形で、戦りたくねぇ…)
葛藤する政宗をよそに、一歩、また一歩と幸村が間合いを詰めてくる。やはりその瞳に光は見えない。あれ程淀んだ幸村の瞳なんて、見たことも、ましてや想像した事すらなかった。
「久秀様の、邪魔…」
「さぁ来な…
…俺の心臓はここだぜ!!」
「………消す!」
力強く地面を蹴り上げた幸村は、刀の切っ先に炎を宿し一直線に政宗に向けて攻撃を開始した。頭上から大きく振り下ろされたそれを刃の腹で受け止め、尚繰り出される二撃、三撃目を難なく弾き返す。
これはまだ幸村の本気ではない。自我は無くとも、本能がそうさせているのだろうか。初っ端から全力で突っ込むような馬鹿な真似はしないようだ。
「どうした、アンタはこんなモンじゃねぇだろ!!」
この程度じゃ俺の魂は獲れねぇぜと挑発して、防戦一方だったのを反転し幸村の攻撃態勢が整う前にその懐に向けて鋭い突きを繰り出した。
だが幸村も一歩も引かない。その突きを空中に身を躍らせる事でかわした後、間合いを取って久秀の足元まで飛び退く。
「やはり獲物がひとつでは戦り辛いかね?遠慮する事はない。これも使いたまえ」
「っは…ハァっ……!」
差し出されたもう一本の刀を受け取り、両の手に刃を持った。その身体は憶えているのか、いつもの二槍を扱うように交互に構えを取る。再度宙を舞い先程の倍以上の手数を放つ。瞳が赤く染まり、ただ政宗を討つ事だけに意識を持っていかれていた。
怒れる虎若子は鬼になり、容赦なく獲物を狩らんとする。
「旦那っ…!」
見ていられない…大型手裏剣を持ち直すと、部屋の奥にある香炉目指して足を踏み出した。あれさえ破壊してしまえば、幸村は元に戻る。こんな、こんなにも辛く悲しい姿なんて見ていたくない。誰も傷付いてなんか欲しくない。歯を食い縛り、歪みそうになる視界を堪え投げの体勢に入る。
「おっと、この勝負に水を差す気かね。これ以上無粋な事はしないでくれないか」
「っ、何…!?」
丸腰だと思っていた松永の指先から火炎が走り、地面を蛇行して目の前で閃光が弾け飛ぶ。
一瞬にして上がった火柱の衝撃に吹き飛ばされ、爆風と共に佐助の身体は壁に叩き付けられた。
つづく
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