短編(CP)

□鴨肉入り卵かけご飯をどうぞ
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『卵かけご飯か……懐かしいなぁ』


確かに俺はそう言った

しかしそれはけして催促などではなかったし、ただ店で他人が食べているのを見てふと口に出してしまっていただけだ


他人の芝生が青く見えただけと言っても間違いではない



それなのにこの男はそれを真に受けて




「食べたかったんじゃないのか?」

「あ、いや……」



確かに食べたかった
ただ、こんな形でもらえるとは思っていなかったので非常に驚いているだけだ


まさかの手作り
しかも肉入り

さらに香ばしい匂いが、これらの材料が市販の物でないことを教えてくれている
 

しばらくどう反応すればいいのか迷っていると、桂は何を勘違いしたのか食材の説明をし始めた



「この米はもっちりとした触感が有名でな。すでに売り切れだったのだが、店主に頭を下げて1人分だけ分けてもらった」

「お、おう」

「卵はぜひ産みたての物を使いたかったので少し無理を言って小屋に立ち入らせてもらった。新鮮だぞ?」

「わ、分かったって……」

「醤油はな、本来は薄めているようなのだが、どうしてもと頼んで生で売ってもらった。肉は鴨肉だ。知り合いに猟師がいたのでいい鴨を……」

「ま、待ってくれ!」


一応攘夷志士のリーダーとして活動している桂にここまでさせてしまった自分の不用意な発言に、今更ながら自己嫌悪に陥りそうだった


万事屋でもしそんなことを言うようならばすぐにでも

『なら仕事してくださいよ銀さん!』

『そうアルよ!銀ちゃんが働かないから今日も米だけアル!』


なんて返ってきて終わるだろう
それに慣れすぎしまって、この変なところで真面目な、いや、馬鹿正直なこいつの前でまで意味もないことを言ってしまった


「……やはりこれでは食えないか」

「え?」

「遠慮することはない。こんなもの手抜きなのかもしれないのだからな」

「いやどこが?!むしろ攘夷活動中にこんなことする時間どこにあったか聞きたいくらいだからね?!」

「いいや、俺は材料をもらっただけだ。けして自分で醤油を造ったわけでもなければ鴨を捕ったわけでもない」


確かにそれはそうなのだが……
俺はそんなことが言いたいわけではなかった
むしろ謝らなければならない
俺の発言のせいで振り回してしまったことに


それなのに……


「それでも……手抜きだと自覚はあるが、それでも銀時に食べて欲しい。これが俺の出来る─お前にしてやれる精一杯なんだ」


そんなことまで言われてしまったら


謝るのさえ悪く思えてくるじゃないか
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