がちゃり。
何度目だろう。
こうして、彼の訪れを此の部屋で心待ちに待ち構えているのは。
早く逢いたい。
逢って、めちゃくちゃに抱かれたいと激しく思う。
そうすれば辛い思い出も全て忘れられるから。
明日になったらもう此の扉が開く事は無いかもしれないと不安に怯える事も無くなるから。
だから彼に抱かれたかった。
其れが浅ましい願いだったとしても。
彼を、愛して居たから―――
『今日で世界が終わることを切に願う』
「待たせたな」
「別に。待ってなどいない///」
己の心を見透かされているのだろうか。
何気ない其の一言にさえドキリとさせられる。
「相変わらずつれんなぁ。だが‥其処が良い」
「何を訳の分からない事を。お前だってどうせ気紛れで此処に通っているんだろう??下らない戯れなど交わさずにさっさと抱いたらどうだ??」
本当はこんな事が言いたいんじゃないのに。
其れなのに、出てくるのは本当に可愛げの無い言葉ばかりで。
「全く。其方は可愛げの無い女だな」
なんて、言葉とは裏腹に嬉しそうな笑顔でからかってくる此の男が何故か憎らしくも愛おしく感じた。
こんな事では何時か飽きられてしまうだろうな。
何時まで経っても素直になれない自分に心底呆れつつ、彼女はそっと目を閉じた。
「抱くぞ??」
「‥いちいち聞くな、お前の好きにすればいいだろう??賭けに勝ったのは…お前なのだからな」
「ハハッ、そうであったな」
滑らかな手付きで男の指が肌に触れてくる。
腿、腰、髪、背中。
其れはどれを取っても労わりのある、優しい手付きで。
昔愛した男が与えてくれた、懐かしい温もりを思い起こさせる様な
そんな触れ方だった。
「……焦らすな」
「何だ、今日はやけに性急だな。待ちきれなかったのか??」
「別にそういう訳では‥」
もっと乱暴にして欲しかった。
もっと酷い抱き方でも良かった。
あの男の事を一瞬でも忘れられるなら其れでいいとさえ思っていた。
なのに―――
「閻魔…///」
「沙羅、良くしてやるぞ」
目の前の男に触れられるだけで身体がゾクリと芯まで震える。
コレ以上優しくされたら、此の男に溺れてしまいそうだ。
花の精はそんな事をぼんやりと考えながら唇に降る接吻の嵐に頬を紅潮させた。
「ん…ん、ふ///」
柔らかい感触と温かな温もりがジン。と伝わってくる。
其れと同時に下腹部の奥がじわりと熱く濡れて来て。
じゅう。と肉汁が溢れる様に、まだ触っても居ない花弁から甘い蜜が滴り落ちて来る。
「あっ///」
「見た目に反して其方は淫乱だな。堅物に見えてもうこんなになっておるとは‥厭らしい女だ」
「言うなっ///」
既にじゅくじゅくに熟れた其処は布越しからでも簡単に糸引くくらい濡れに濡れていた。
其の中心の、硬くしこった芯をグリグリと指で強めに弄ってやれば
「は‥あぁああっ///」
強烈な快感に堪らず声を上げてしまう花の精。
意地悪で、けれど確実に性欲を引き出してくれる巧みな指使いに腰が強請(ねだ)る様にくねくねと勝手に動き出す。
「いや、だ‥其処ばっかり、弄る…な、あっ///」
「こんなに濡らしておいて何を言う。もっと正直になったらどうだ??」
「う、あぁあっ!!」
ぬぷり
ドロドロに蕩けて熱くなった内部に閻魔大王の指先が挿し込まれる。
ぬぐぬぐと、濡れた肉壁を掻き分ける指先はいとも容易く花の精を絶頂に導いてくれた。
「ふあぁああっ///や、嫌だぁあっ!!」
ぷしっ
軽く潮を噴きながら、彼女は半泣き状態でビクビクと切なく身体を震わせながら叫んだ。
そして達したせいか、ぐったりと脱力した様に寝台に其の身を預け暫く動けずに居たのだが―――
「ん…あ、も…もう、なのか??」
「良いだろう??待ちきれなかったのは其方だけでは無いのだからな」
「くぅっ///」
休む事も許してくれないのか
閻魔大王がそのまま襲い掛かる様に覆い被さって来てしまったので、花の精は抵抗もロクに出来ないまま彼を受け容れてしまった。
「あっ、あぁあ!!やぁ、直ぐに…うごく、なっ!!」
ギッ、ギッ、ギッ
寝台が二人の動きに合わせて軋む。
まるで沈み込む様に奥へ奥へと侵入してくる激しい律動に花の精は必死に付いていくのがやっとだった。
「あぅ、おく…は、やめ‥はぁんっ!!」
もう何も考えられない―――
花の精は中に熱い液体を注がれながら、そっと意識を手放した‥‥
「…‥‥ん」
それからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
ふと目が覚めた彼女は、暗闇に染まった天井をぼんやりと眺めてみせた。
「寝てしまったのか??」
ふと隣りに視線を移せば其処には愛しい男が。
すやすやと規則正しい寝息を立てる、其の端整な寝顔に思わず笑みが零れる。
「寝ていれば可愛いモノだな」
サラリ。
見事な黒髪が音を立てて零れ落ちる。
其れを優しい手付きで玩びながら
「今日で世界が終わってしまえばどんなに幸せな事か‥‥」
と、彼女は独り言の様にそっと呟いてみせた。
何時か別れる時が来る。
結末はどうであれ、何事にも終わりがある事を痛い程良く分かっていた花の精はこんな事を考えていた。
どうせなら今死んでしまいたいと。
愛する男に激しく愛されたまま死んでしまいたいと。
「今は私に夢中でも、何時お前が心変わりしてしまうか分からないからな…」
其れが叶わぬ願いというのならば
せめて今日で世界が終わる事を切に願わせて欲しいと
花の精は心からそう、思うのだった…
※甘い所か暗い話しになってもうたorz