□秋山に愛される
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"秋は人肌が恋しくなる"
誰がこんな言葉を考えたんだか、この言葉のせいで、目の前のバカ男は浮気しやがったんだ。
浮気発覚はありがちなパターンで、いつもより早く仕事が終わったから彼との時間を堪能しようと早々に彼の部屋に向かった。どうせなら驚かせてやろうとこっそりアパートに入ると見覚えのないハイヒールが転がっていて、嫌な予感がした。いや、もうこの時点でほぼ確信だった。
軋むベッドの音に響く嬌声。ああ、とうとうやりやがった。
そこからの記憶はかなり曖昧だけど、若くて可愛い女は顔を青くして逃げ帰った。
全裸で残されたバカ男を問い詰めたら逆ギレし始めた。
「お前が仕事ばっかりだから!!俺だって寂しかったんだよ!」なんて、大の大人が声を荒らげるのが情けなくて、なんだかもうどうでも良くなった。

1発ビンタしてムカつくけど好きだった顔に
「自由にしてあげる」
と告げ、部屋を去った。もう二度と来ることは無い。

ムカつくムカつく!なんであんな奴に浮気されなきゃいけないんだ。
グルグルと胸の中に渦巻く黒い感情が、どんどん体を昇ってきて目から溢れてしまう。
ヒールが削れてしまうのもお構い無しに汚いアスファルトを蹴るように、いつも鬱陶しいほどの神室町の喧騒の間を縫っていく。

「こんばんは!!!!」
「お、おぉ、いらっしゃい」

ボロボロと泣きながらいつものバーに入店すると、マスターは驚いた顔をしながらもカウンターに誘導してくれた。

「どうしたの?なんだか荒れてるね」

先に座っていた常連の秋山さんが高級そうなハンカチを差し出してくれる。
いい匂いのするハンカチに吸い寄せられるように顔を埋めて経緯を話すと、秋山さんから呆れたようなため息が聴こえた。

「馬鹿な男だねぇ。俺ならこんなに可愛い彼女を差し置いて、他の女になんか手出せないけど」

大きくて暖かい手のひらで頭を優しく撫でてくれる。

「……ずるいですよ。傷心中にそんな事言わないでください」
「フフ。そう、俺はずるいよ?チャンスは見逃さないんだ」

まるでイタズラが成功した子供のような笑顔で言われると、胸が高鳴ってしまう。
私より幾つも歳上の秋山さんはグズグズ泣いている女の相手も慣れているんだろう。動じずにスマートに慰めてくれる。嫌でも馬鹿な元彼氏と比較してしまう。
忘れよう!あんな男!

「マスター!強めのお酒いっぱいください!!!」
「わかったよ、飲みすぎちゃダメだぞ」

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「ほら、ななちゃん起きなよ」
「う゛ぅ゛〜やだ〜帰りたくない〜」
「だーから飲みすぎるなって言っただろ」

やめてマスター……身体を揺らさないで……
酔いすぎて反論する気力もなく突っ伏したままの私に、マスターは大きなため息をついた。

「ハハッ、良いよマスター。俺が彼女を送っていくさ」
「良いのかい?こんな酔っ払い任せちゃって」
「あぁ、全然構わないよ。……さ、ななちゃん」

椅子を引かれて机からひっぺがされた私の体は、いい匂いのする広い背中へもたれかかった。

「アハハ、ほんとに潰れちゃったね」
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