龍
□クールな峯氏
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峯はつまらない男だ。
つくづくそう思う。
以前、峯の驚いた顔を見てみたくて廊下を歩く峯の前に、角から飛び出したことがあった。
その時の彼の反応は”無視”
馬鹿にしたように見下ろされた眼に、恥ずかしくなり大吾さんに泣きついた。
峯と違って大吾さんは優しいと思う。
大吾さんにも同じイタズラを仕掛けたことがあったけれど、彼は優しく笑って「びっくりしただろ」と頭を撫でてくれた。
決して驚いてなんか無くても、そういうフリができる大吾さんは優しい。
20代にもなって小さなイタズラを仕掛けるのは自分でもどうかとは思うけれど、退屈なのだから仕方ない。
私は一応、東城会の事務仕事をさせてもらっている。
一度、チンピラに絡まれていたところを大吾さんに助けてもらい、それから彼の大きさに惚れてしまった。
なんとしても近くに居たかった私は頼み込み、こうして住み込みで仕事をもらった。
「なな、疲れたろ、もう休んでも構わない」
「あ、大吾さん!ありがとうございます。でもあと少しなので」
「そうか、無理はするなよ」
優しく笑って「おやすみ」と言った大吾さんに返事を返し、机に向かい直す。
そう、もう少しで仕事が片付きそうなのだ。
書類をパラパラとめくり、ため息をつく。
少し、休憩を挟もうかな。
机に伏せて目を閉じると、襲ってくる眠気。
「ちょっとくらいなら…」
夢の世界に旅立とうとした時、スパーンと言う小気味良い音と衝撃が頭に落ちた。
「なにごと!!!」
「良い度胸だな」
低く冷たい声に振り向けば、そこには眉間にシワを寄せた峯。
片手には薄いファイルを持っていた、なるほどこれで叩いたのか。
「お、おはようございます」
「…。」
「なぁんちゃって〜…」
「大吾さんの迷惑にはなるな」
冗談すら無視して注意とは…
と、机に置かれたマグカップ。
コーヒーの香ばしい薫りが、湯気になっている。
「峯さんこれ…」
「さっさと終わらせて部屋に帰れ」
そしてフイと後ろを向き、扉に向かう峯。
もしかしてコーヒーを差し入れするために?
なんだ、優しいとこもあるじゃないか。
イタズラは程々にしてやろう。
温かく苦いコーヒーをずずっと飲んだ