10/29の日記

01:15
風邪を引いた日。(柄×丑)
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ピピ…という電子音で沈みかけていた意識が戻される。

―38.2℃
表示された数字に柄崎はため息をつく。

(やっぱ熱あるよな…)

昨日から喉が痛くてふらふらしていたので大事を取って早めに寝たが、やはり風邪は手強かった。

(連絡、連絡……っと)

柄崎は携帯を手にとり「カウカウファイナンス」にダイヤルした。
電話には小百合が出た。
手短に事情を話し、電話を切り、再びベッドに潜り込む。
(正直…休みたくねェけど…うつしたら大変だしなぁ……)

カウカウファイナンスは従業員6人の零細企業だ。一人休むだけならまだしも二人、三人となれば仕事に手が回らなくなってしまう。
それに、このヒリヒリと痛む喉を抱えて行っても、電話での応対が大半の業務だ。風邪がこじれるだけだろう。

(とりあえず、薬飲んで寝るか……)

柄崎は薬箱に手をのばした。




―ピンポーン―

来客を告げるインターフォンの音で柄崎は目が覚めた。
「うーん……誰だ?こんな時に…」
だるい身体をなんとか起こし、ベッドから出てモニターを見る。

「…………社長ッ!!」
写っていたのは丑嶋の姿だった。
柄崎は慌てて玄関のドアを開ける。
「しゃ、社長……ッ!!」
「おう。どうだ?具合は」
「は、はいっ!大丈……ゴホゴホ」
「……大丈夫じゃねーだろ」
「す、すいません……」
「上がっていい?」
「ど、どうぞ!!」
……と、言いながらも、もっと普段から部屋を片付けておくんだったと、柄崎は熱やその他もろもろで熱くなった頭で考えていた。

「すぐ、お茶入れま……ッ?!!」
柄崎がそう言いかけたと同時に丑嶋は突然、柄崎の肩に手をかけ、そばにあったベッドに押し倒した。
「しゃ……っ社長ッ?!!」
「…アホ。お前病人だろ?寝てろ」
「…………」
(……なんだ、そういうことか。俺てっきり社長に襲われンのかと思……ッ?!!社長が俺を襲うって!?ちょちょちょっっと!!俺を?!ちがう!俺は受けじゃねェ!攻めだ……って、何考えてんだこんな時に俺はァーーー!!!)

「お前、何一人でぶつぶつ言ってンの?」
一人問答する柄崎を見て丑嶋は怪訝そうな顔をした。
「……い、いえっ!」
柄崎はすぐ現実に引き戻され、慌てて答える。
「……お前、熱は?」
「へ?…まだあると思いますけど……ッ?!」
突然、丑嶋の手が柄崎の額に触れたことにより、柄崎は思わず肩を跳ねさせた。
「そうだな……寝ろ、柄崎」
(しゃ、社長の手が……ッ俺に……っ!!!)
丑嶋の言葉とは関係なく、半ば失神するようにして柄崎はベッドに沈み込んだ。



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01:15
風邪を引いた日。[続き]
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ふと、目を開けると、どこか懐かしい天井の木目(もくめ)が見えた。しかし、何故だか眩しいような白い光のせいで、はっきりとは見えない。

『貴明、丑嶋くんが来てくれたわよ!』
『え、マジ?!』
母親に起こされ、柄崎はベッドから飛び起きて玄関に向かった。

『……丑嶋!』
そこにいたのは中学生の丑嶋だった。しかし、何故か顔は光のせいでよく見えない。
『これ、今日の分のプリント。』
『お、おう……さんきゅー』
『"馬鹿は風邪ひかない"って嘘だったんだな…』
『あ?おいコラァ!俺のこと言ってンのか?!』
『お前以外誰がいンだよ。……早く出てこねえとダブり(留年)になンぞ!』
『うっせーよ!とっとと帰れ!』
『言われなくったって帰るよ!』
丑嶋は耳の後ろを掻きながら、めんどうくさそうに家を出て行った。

(丑嶋……)
憎まれ口を叩いた柄崎だったが、丑嶋が来たことが少し、嬉しかった。

しかし、翌日元気になって学校へ行って柄崎は驚いた。

『柄崎、これ昨日のプリント』
担任の教師から丑嶋が持って来たプリントと全く同じものを渡されたからだ。
『え…俺、昨日、丑嶋から貰いましたけど…』
『あれ…?そうなのか?俺からは届けるように言ってないが…まあいいや。持ってるんなら』
『…………?!』
(もしかして、あいつ、わざわざ俺に……っ)
てっきり言われて来たと思っていたので、柄崎は驚いた。
一人固まっていると、後ろから肩を掴まれる。
『おい、柄崎』
『丑嶋……っ』
柄崎は嬉しい気持ちでいっぱいになりながら振り返った。
しかし、そこにいたのは中学時代の丑嶋ではなく、すっかり大人になった丑嶋だった。
『え……?!』



……と、そこで急に眩しい光は消え、世界がはっきりと浮かび上がってきた。
目の前に映るのは見慣れた天井と、怪訝そうな顔をして柄崎を覗き込む丑嶋だった。

「お前、さっきから怒ったり驚いたり笑ったり……大丈夫か?」
「え?……は、はい」
どうやら先程までの出来事は夢だったらしい。

「夢…見てたんですよ」
「夢?」

そう、確かに夢ではあるが……
「ええ。懐かしい夢でした」
あれは柄崎の記憶そのもの。つまり、中学生の丑嶋がとった行動も現実のものである。
「ふーん……柄崎、起きれそう?」
「…はい」
薬がだいぶ効いてきたのか、起こした身体はずいぶん軽くなったように感じられた。…と、同時に手の甲に何かひんやりとしたものが落ちた。
見るとそれは、水で濡らしたタオルだった。丑嶋が額にのせてくれたのだろうか。

「……これ、食える?」
丑嶋は盆に載った小さな土鍋を差し出した。中には柔らかな湯気を立てるお粥が入っていた。

「社長が作ってくれたンスか?」
「……まあな」
そう答えた丑嶋の声はいつもより僅かに小さめだ。目線も少し泳いでいる。
柄崎はそんな丑嶋を見て、愛しげに目を細める。
「いただきます!」
柄崎は丑嶋から盆を受け取るとスプーンを取り、食べ始めた。
「うまいっす……っ!」
「…塩しか入ってねェぞ」
「充分っす!!」
そう柄崎は笑顔で答え、美味しそうにぱくぱくと食べた。

(社長…昔っから俺が具合悪いとき、優しかったんだよな……今日だってわざわざ看病に来てくれたし……)
「社長ォ〜」
「あ?なんだよ」
「もう……っ大好きッス!!!」
「……アホ。へんな事言ってねェでさっさと食え!」
「うぃっす!」

(それに…いつもだと「あっそ」って流すようなことでも一つ一つ反応してくれンだよな…)

まだ喉は痛むが、柄崎は風邪を引く前よりも元気になったような気がした。




end.


〜おまけ〜

「柄崎、リンゴ剥けたぞ」

(うさぎリンゴじゃねえか…社長マジかわいい!!!)
「社長ォ〜」
「何?」
「こほこほっ…俺、また具合悪くなってきたみたいッス……リンゴ食べさせてくださ…」
「あっそ。具合悪りィならリンゴ食えねえよな?俺、一人で食うわ(シャクシャクシャクッ)」
「ええ〜そんなァ〜っ!!!」

――調子に乗るとすぐばれるので気をつけましょう。――

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