はなれていても…
□ 少年の実力
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体育館のなかは何処か異様な緊張感を帯びていた。
ダムダム、とバスケ特有のボールを着く音が体育館に響く。
ボールをついているのは瑠衣だった。
瑠衣はボールをつきながらバスケットゴール下に移動した。
瑠衣は、僕がディフェンス側に着くからあんたはオフェンスでいいよ。といって若松にむかってボールを投げた。
『5回中1回でも僕を抜いて点を入れたらあんたの勝ち。
入れられなかったら僕の勝ちです。』
瑠衣に敬語がもどって来ている。
瑠衣は少しづつ冷静になってきたようだ。
若松も先程よりは冷静になってきていて、瑠衣のそのはたからみれば自意識過剰ともいえる自信満々な言葉に何も反論しなかった。
だが、内心では色々思っていたようで、それは若松の顔を見れば一目瞭然だった。
周りはそんな若松をみて、若松も少しは大人になったな。と見ていた。
やはりいつも青峰の自意識過剰ともいえる発言を聞いているだけのことはあり、そういったことには段々と免疫がついてきたようだ。
青峰の発言と比べると瑠衣の発言はまだ可愛いものだったのだろう。
若松は自分の中にたまる苛々の募りを自分が持っているボールを体育館の床につくことで、紛らわせた。
「クソッ!
あー!ムカつくっ!!」
そういって若松はそのまだ自身の中に募る苛々に身をまかせ、点を取るため、バスケットゴールの方へ動いた。
瑠衣はそんな若松をみても、これといってその場から動くということはせず、若松が何かをしかけてくるのをまった。
桐皇の面々は若松の顔をみて、こんな奴に桐皇が、俺が負けるわけねぇ!
ちゃっちゃとすまして実力の違いってもんをみせてやる!
とでもおもっているだろう。と思った。
そして、今吉を除く桐皇の面々は若松の圧勝で終わるだろうと確信していた。
若松は先程から溜まっているストレスの発散をするべく、シンプルに、ダンクをするために飛んだ。
それでも瑠衣は動くことなく、若松を見ている。
そして、若松はボールをゴールに持っていった。
ーーーーー決まったなーー
誰もがそう思った時だった。
『ねぇ、舐めてるんですか?
遅過ぎなんですけど。』
「っ?!」
ダンッという大きな音が体育館の中で響いた。
誰もが何が起こっているのか理解できなかった。
気づいた頃には若松の手の中から今さっきまでもっていたボールがなくなっていて、さっきまでただ立っているだけだった瑠衣はフリースローラインの位置でボールを回して立っていた。
体育館の中に響くのは、若松が、ボールを取られて目的のなくなった手で捕まっているゴールが軋む音だけだった。
若松は驚きのあまり、その場から動くことができなかった。
若松だけでは無い。
誰もがそうだった。
そして瑠衣は、若松の方にゆっくり振り返る。
『肩慣らしはすみましたか?
次は本気でいきますよ。』
瑠衣の口は綺麗な弧を描いていた。
ゴクリ。
誰かの唾を飲み込む音が聞こえた。
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