吉原から始まる”恋”と言う名の物語

□吉原桃源郷にて 貴方と銀時
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コツンコツンーー……








暗い路地を歩く足音が響く。
そこには阿伏兎の元へと歩く、2人の夜兎がいた。






「瑠亜、俺達について来る事にしたんだね。

正しい判断だよ。


あのままあそこにいるなんて言っていたら、
おそらく俺は吉原を壊してでも、君を連れて行くつもりだったよ。」








『ーー……。


……如何してお客様は私にそれほど執着するのですか?

私より強い者など、この広い宇宙には沢山います。

それなのに何故ーー……?』






瑠亜はそれが謎で仕方がなかった。

瑠亜はどんな答えが神威から返ってくるのか、少し楽しみ…いや、期待をして待っていたが、

その答えは瑠亜が思っているより、曖昧な答えだった。





「クスクスっ。

さぁ?何でだろうね?」





お客様の考えている事は理解が出来ない。

瑠亜は率直にそう思った。






「そんな事より、
さっきのお侍さんとは、如何ゆう関係?
ただの知り合いってわけではなさそうだね。」







さっきのお侍様…銀時。
この"銀時"という名前は不思議だ。
ただ呟くだけで、色んな感情が私の心の内からでてくる気がする。


けど、私はもっと、もっと、他の大切なものを忘れている気がする…。

…………。


……あぁ、やっぱりダメだ。
思い出せない。








『銀時との関係は私にもよく分かりません。
何しろ私は記憶がなくなっている様ですので。

むしろ、自分には記憶を無くしたという自覚さえありませんがね。』





瑠亜の言葉に対して、神威は何も返事をしなかった。


ただ、ニコニコと笑い、無言で建物にもたれかかるボロボロになっている阿伏兎を見ていた。


3人の間には沈黙が流れる。

その沈黙を破ったのは、阿伏兎であった。






「………

……たまげたねぇ……。
吉原に陽が昇ってやがる。

陽が昇ってるってこたぁ、
沈んだのは夜王って訳かい。」





阿伏兎は気だるそうに話した。







「さぁね。
負けた奴には興味は無いよ。

阿伏兎。」




神威はそう、淡々と言い放った。





「こいつは手厳しいや。
これでも頑張った方だろ。

なんせ相手はあの夜王を倒しちまう程のお嬢さんだ。

なぁ、お兄さんよ。」





「…………。

阿伏兎。また悪い癖が出たね。
俺とやり合った時もそうだった。

同胞を大切にするのは結構だが、加減したまま力を出し切らず負けるなんて、夜兎の風上にもおけやしないよ。

お前は夜兎の血を愛でるあまり、最も血に恥ずべき行為を行ったんだ。

言っただろう。
弱い奴に興味は無いって。」





「俺ァ加減なんてした覚えは無いがね。

だが…あの逸材をこんな所で消すのは勿体無いと思ったのも事実だよ。

あんたと会った時と同じ感覚だった。団長。

実に面白い兄妹だよ。

嬉しいねェ。
有望な新人が続々と…。

夜兎の未来は明るいぜ。

これからはお前達の時代だ。
俺達古い夜兎は夜王と共に月に還るとするか……。」






阿伏兎は神威に殺されると思い、目を瞑った。












ゴトッ。













響いた音は、大きな音ではない。
肉を裂く様な音でもない。

その音は阿伏兎の肩に腕をを神威が肩に掛けたとき出た音であった。







「………ありゃ…?
如何いう風の吹きまわしだ。」






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