ドラズ短編

□キミは1人じゃないよ
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「どけっていってんだろ!」




ドンッ






俺はただ、しつこくちょっかいを出してくる同級生の両肩を軽く押しただけのつもりだった。

しかし俺の目の前に広がる光景は
最悪としか言いようがなかった。


お、おいやべぇぞ!誰か早く先生呼んで来い!
大丈夫?おーーーい大丈夫か??

悲鳴を上げる女子生徒たちに、
倒れた生徒を介抱する男子生徒。
悲鳴と混乱で教室は騒然となる。




「あっ…あ…」



俺はその場に突っ立ったまま震え続ける両腕を見つめた。




―また…またやってしまった…―




後悔しても遅い。
俺に押された生徒はきれいに並べられた机もろとも前方の黒板側に飛ばされ、
ひどく頭を打ち、人間でいえば血液であるオイルを床に溢れさせていた。




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「校長、このエル・マタドーラという猫型ロボットは大変危険なロボットですっ!!!
お世話ロボットにはあるまじき怪力の持ち主ですよ!?これまで何体のロボットたちが彼の犠牲となったか…。
このような危険なロボットは即刻廃棄処分とすべきです!」

女教頭が半ば興奮しながらそう主張するのを
校長は腕組みをしながら聞いていた。

「しかしのう…彼は情熱や根性に関してはどのロボットにも負けない心の持ち主じゃ。個性を伸ばせばきっとよいロボットに…」

「どうして校長はすぐそう言うのですか!ロボットは完璧でないといけないでしょう?なのに校長は個性を伸ばすとか何とか言って勝手に特別クラスなんか作って…。」

「ロボットが全てにおいて完璧である時代は終わったのじゃよ。これからはロボットだって人間と同じように個性を伸ばして自分の人生を歩む時代じゃ。
わしらは欠陥品だからと言って見放すのではなく、彼らなりの人生を歩ませる手伝いをするべきなのじゃ」

「個性を伸ばすのは結構ですけども、これ以上問題を増やさないでくださいねっ」

報告書を校長の机に投げつけるようにして置くと、苛立ったまま女教頭は出て行った。




「完璧なロボットしか認めない…か」




欠陥品であるといわれるロボットも必ずどこか光るところがある。
そう校長は信じているのだが、実際そう思っている人間は少ない。
ロボットは完璧で完璧でないとロボットではない。
ロボットが人間と変わらない権利を持ち、生活や感情を持つようになった現在でもまだまだそんな風潮が強いのだ。



報告書を手に取り、校長はつぶやく。



「エル・マタドーラか。彼も特別クラスにいれてやろう。きっとそこでは友達ができるはずじゃ…」






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「なんだとっ王ドラ!」
「あなたがシエスタばかりしてるのがいけないんでしょうがっ!」
「だからっていきなり寝てるところに飛び蹴りしてくるんじゃねぇ!このカンフー馬鹿が!」
「ああそうですかそうですか。それならこっちも言わせてもらいましょう!この怪力馬鹿牛!!」
「なんだとぉぉぉ!!!」
「本当のこと言っただけでしょうがっ!」

他のドラえもんズのメンバーが「やめなよ2人とも〜っ」と仲介に入っているが、これは当分終わりそうにない。

その様子を廊下から見つめている校長がいた。

「また喧嘩か…まったく、飽きない奴らじゃのう」

そう言う校長だが、表情はとても優しく、とても嬉しそうである。

エル・マタドーラは普通クラスから特別クラスに移ってから親友ができたらしい。
しかも6人も。

普通クラスの時にはなかなか調節できていなかった怪力も、こちらに来てからは相手に怪我をさせない程度に力を抑えることができるようになったようだ。

それは喧嘩の様子を見ていたらよくわかる。
もし彼が本気を出しているのだったら喧嘩相手の王ドラはひとたまりもない。

そして、普通クラス時はどこか暗かった彼の表情も今では非常に生き生きとしている。
まるで毎日が楽しくて仕方ないというように。





もう彼は一人ぼっちじゃない。





もしまた彼が自分の力におびえる日が来たとしても
きっと親友たちが助けてくれるだろう。


「王ドラもう一回勝負だ!」
「それはこっちの台詞です!」





「よかったのう。エル・マタドーラ」


寺尾校長はそっとつぶやいた。



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