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以下、拍手小説です。
【強がりな猫】
ズズズ、と音を立てるパックジュース。
もう空になってしまったのかと、小さくため息をつく。
すっかり秋の色づきを見せる外を眺めながら、新しいのを買いに行こうかと思案する。
朝からこれで二パック目だ。
あんまり水分取っていると不審がられるだろうか。
そんなことを考えていると、すぐ傍でコトッと小さな音が聞こえた。
視線を向けてみれば、パックジュースが机の上に置かれている。
「……喉が渇いているのだろう」
「あ、ありがと……」
斉藤の気遣いに感謝しつつも珍しいな、と首を捻りパックジュースにストローを挿していると突然ばらばらと机の上に飴が降ってきた。
驚いて目を白黒させている沖田に、藤堂が笑ってそれ全部やるよと言う。
「どうしたの、こんなに……」
「いやぁ今さ、龍之介と千鶴と色んな味試してて。三人で買ってたら結構な量になってさ、悪いけど手伝ってくれない?」
そういうことなら仕方ないね、と呆れたように笑って、もらった飴をポケットに放り込んだ。
そして昼休みなり、けほっと零れた咳に思わず顔をしかめる。
これだから季節の変わり目は嫌なんだ。
斉藤と藤堂にお昼を誘われたが、ジュースを飲んでいたこともあってお腹がすいていない。
少し寝たいからと言って断り、二人がいなくなってからポケットを探り飴を一つ取り出した。
「……まさか、ね」
もらった飴はのど飴ばかりで、千鶴あたりならわかるが藤堂や井吹まで好んで食べるとは思えない。
だけど今更追求してこちらのことを変に勘ぐられたくないので、沖田は飴玉を口に放り込んで机に突っ伏し、寝ようとしたその時。
校内アナウンスで呼ばれる自分の名前に、無意識に顔が引きつった。
今日はまだ何もしていなかったはずだが、と首を傾げながら古典準備室に向かった。
「何ですか、土方さん」
「土方先生、だろ。ちょっとまだ仕事があるからそこで待っててくれ」
「人を呼び出しておいてそれですか?」
「悪いな、ちょっと急ぎの仕事が入ったんだよ」
本当に悪いと思ったのか、珍しいことにココアを作って出してくれた。
そこまでされては仕方ないと、応接用のソファーに座り体を沈めた。
一応仕事部屋兼、教頭としての応接室でもある為いい素材が使われている。
温かい飲み物と、心地よいソファー。
朝から少しだけ気怠さを感じていた体は、休息を求めてゆっくりと瞼が落ちていった。
「あー、やっぱりな……」
起こさないようにそっと近づき、額に触れて呆れた様に息をついた。
そして起きている時は堪えていたのだろう、眠りについてから零れる咳に思わず眉間に皺が寄ってしまう。
「ほんと昔から人に弱いところ見せねぇな、お前は……、もう少し周りを頼れ」
棚にしまっていたブランケットを取り出し、沖田に掛けてやると、控えめなノックの後に斉藤の声が聞こえた。
入れ、と入室を促せば、斉藤と藤堂が入ってきてソファーで眠る沖田を見て安心した様に笑みを浮かべた。
「朝からずいぶんと水分を取っていましたし、時折喉を触っていたので発作を我慢してるのかと思ったのですが……」
「微熱はあるが、発作までは起こしてねぇよ」
「そっか、それならよかった。ほんと総司は何も言ってくれねぇから困るよな」
藤堂の言葉に、土方と斉藤が全くだと頷く。
呆れながらも本心は皆、沖田のことを心配しているのだ。
昔から心配かけるのも心配されるのも苦手で、どんな時でも一人で抱え込んでしまう。
心を開いてくれていない訳ではないのだが、人に甘えるのが下手なのだろう。
言えないなら気づいてやればいい。
いつでも手を伸ばせば、その手を掴んでくれる人が傍にいると言うことに気づくまで。
「あんまり心配掛けんじゃねぇよ、総司」
「……ん、……」
まるでその言葉に反応するかの様に沖田の口から吐息が漏れる。
その様子に思わず三人が顔を見合わせて、困った様に笑った。
いつか同じ返事を起きている時に返してもらいたいものだ、と。
―終―