短編

□おやすみなさい。
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あとちょっと。

あとちょっとで夢の世界に飛び立とうとした時だった。

陽菜の寝てるベッドが軋む音がして目が覚めた。


「…ん……っ。」

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「まり、ちゃ。」


眠たい目を開けると、そこには麻里ちゃんがいた。
スッと髪の毛を撫でてみると、しっとり湿ってる。
「あぁ。お風呂上がりなんだ。」って気付くのと、麻里ちゃんが私をギュッてしたのは、同じタイミングだった。


「んー、…ふふっ。」

鼻先を陽菜の首元に持ってきて、麻里ちゃんは笑った。


「なぁにー。なんで笑うの。」

「いや、なんか幸せ噛み締めてた。あー、私って幸せだなぁー。」

「へんなの。」

「変じゃないし。だってさ、陽菜、私と同じ匂いがするんだよ。」

「そりゃ麻里ちゃん家のシャンプー使わせてもらったんだから当たり前じゃん。」

「えーん、ニャロがムードぶち壊すよう。」


えーんえーん、と泣き真似する麻里ちゃん。

……仕方ないじゃん。
陽菜だって、嬉しいんだけど。
嬉しいんだけど、そんなの陽菜のキャラじゃないし。

そんなこと思ってたら、陽菜を抱きしめる麻里ちゃんの腕の力がちょびっとだけ強くなった。


「ん…麻里ちゃん?」

「篠田は、嬉しいし幸せだよ。陽菜と同じシャンプーの匂いがするのも、こうやってギューってして陽菜の温もりを感じることが出来るのも、陽菜と一緒に夜が過ごせるのも。」


「ね?」なんて耳元で麻里ちゃんが言うから、陽菜の耳は今、きっと真っ赤。


「…麻里ちゃん。」

「ん?」




…この月夜に身を任せて、陽菜もたまには素直になろうかな?

あのね、麻里ちゃん。
本当はね、陽菜もね。


「陽菜もね、麻里ちゃんと一緒に過ごす夜も好きだけど…」

「…けど?」


けどね、


「けど、麻里ちゃんと一緒に迎える朝も好き。大好きなの。」


抱きしめられたまま見つめると、大好きな笑顔で見つめ返された。


「篠田もだよ。陽菜と迎える朝がだーいすき。」

「ふふっ、オロロだね。」

「だね。じゃあ明日も一緒に朝を迎えようね。」

「うん。おやすみ、麻里ちゃん。」

「おやすみ、陽菜。」



優しく、ほんの触れ合うだけのキスをして。

明日も一緒に素敵な朝を迎えよう。


だからそれまで、ゆっくり幸せな夢を見よう。

おやすみ、麻里ちゃん。






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