secret Alice

□1、二度寝しても景色は変わらないよ?
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どこからともなく吹いてくる心地いい風と、冷たい床の感触で目を覚ます。
「……何処だろ、ここ」
第一声が出たところで、二度寝に入ることにした。
  secret Alice






「……」
もう一度目を開いても景色は変わらず、紋の見上げる先には天井と呼べるものはなく、暗い穴が開いているようだった。その穴は呆然と見つめながら紋はここで目が覚めるまでの記憶を辿っていた。
―確か満月が綺麗だからだったから豆太と「月見しよう!」ということになって…。
「それで…近くの湖まで二人で行って…それから…」
紋にはそれ以降の記憶がなかった。上半身を起こして辺りを確認しても豆太の姿は何処にも無い。
―豆太なら…一人で大丈夫か。


彼女の言う‘豆太’というものは人ではない。
人には見えないこの世界の住人の一人、小さな鬼なのだ。
神社で生まれ育った紋にはそういった“人とは異なった存在”を認識する能力(ちから)があり、例外なく“豆太”という子鬼を見ることができた。今では良き話し相手の同居人として仲良く暮らしていた。

―とりあえず、外に出よう!

自分が何処にいるのかを確かめたくて紋は辺りを見回し、小さな子供が一人通れるサイズの扉を見つけた。
「狭っ!」
身を屈め、やっとのことで通り抜け、紋は改めて外を見た。


外は予想通り見たこともない場所で、何か手がかりがないかと歩みを進めた。
「ああ、もうこんな時間! 彼女はいったい何処に行ったんだ!?」
しばらく道なき道を歩いていると、大きな懐中時計を持って騒いでいる二足歩行の兎がいた。
「………思い出した!」

紋はここに来る前に、目の前に居る兎と全く同じものに、湖に映る月の中へと強引に引きずり込まれたのを思い出した。
「ちょっと、そこの兎!」
ここは何処なのか、どうやったら帰れるのかなど、いろいろなことを聞いてやろうと目の前でオロオロしている兎に声をかけた。
「アリス! 今まで何処にほっつき歩いてたんだ、このアホ!」
「………は?」
この兎は頭が可笑しいのか? と考えてしまったが、兎の話の内容や独り言を聞いているうちに一つのことが頭に浮かんだ。
「あの、もしかして人違いでは…?」
「本当に何を言ってるんだアリス、とうとう頭を可笑しくしたのか? ついに自分が分からなくなるなんて…。重症だ、だから城から脱走するのは辞めろとあれほど言っておいたのに…」
「私は紋です!」
 

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