main(BL)

□【ビター中毒】番外編
1ページ/1ページ


【七夕】
※この話は悠介と和加が恋人同士となっています。






「うー…」

ザラザラした喉の痛みと、起き上がることさえ困難に感じさせる頭痛。
熱で身体は熱いのに、寒くて仕方がない。

「唸ってないで大人しく寝てろ」

布団の中で不満げに唸っていた和加に、呆れ声が言う。
その声はどこか甘さを含む。

「だって悠介さん、今日七夕なんだよ…」
「…そうだったか?」

自宅で仕事をする悠介は、日付感覚がほとんどない。
クリスマスや年末のイベントは気づくが、やらない人が多い七夕は、悠介の頭から完全に抜けていた。

「せっかく時間あけたのに…」

七夕のために用事を全部終わらせて、悠介の元に訪れた和加だったが、顔を見て気を抜いた瞬間倒れた。
無意識のうちに溜まっていた疲労が、熱としてあらわれてしまったらしい。

「だからって唸っても仕方ないだろうが。ちゃんと寝てろ」

ベッドの端に腰掛け、ひやりとした手が優しく額に触れる。
相変わらず口調はぞんざいだ。
けれど和加への接触は増えていた。

「悠介さんの手、冷たくて気持ちい」
「お前が熱いんだよ。…きついか?」
「ちょっと。でも平気」

小さく微笑んだ和加に、触れるだけのキスが贈られる。

「う、うつるよ」

一応の批判は言っても、恋人同士の行為に慣れていない和加にとっては、そんなキスでさえ表情が緩む。
ふにゃりととろけたような表情は、悠介しか見たことのないものだ。

「そんなやわじゃない」
「ん…」

クスクスと楽しげな笑いが聞こえて、今度は深いキスが与えられた。
熱のせいでぼうっとしている思考が、ざらざらな舌に舐め溶かされて尚更霞んでいく。

「ぷ、は…」

ある程度手加減した口づけだったが、体力のない和加は荒い息を繰り返すはめになった。

「何がしたかったんだ?」
「え…?」
「七夕。何か願い事でもあったか?」

詫びるように背中をさすりながら、悠介が問い掛ける。
呼吸が正常になるまで、和加は答を考えた。

「特には、ないけど」
「けどなんだ」
「…ゆ、悠介さんと、一緒にお話したくて。何かを話したかったんじゃなくて、久々に、会うし…」

おずおずと遠回りに口にした想いを、あっさりと単語に直される。

「あぁ、なんだ。淋しかったのか」

ただでさえ熱で真っ赤な顔を、悠介の言葉でもっと赤くしながらも、和加はこくんと小さく頷いた。

「でも寝てないと、治らないだろう?」
「わかってるけど…」
「じゃあ、傍にいたら寝るか?」
「………うん、寝る」

甘えるように悠介の手をつかんで、顔を擦り寄せると目を閉じる。
七夕でなくても和加の我が儘を聞いて叶えてくれる恋人は、されるがままの状態で、静かに囁いた。

「おやすみ、和加」






end





初のビタ中の番外編。少し前に書いた七夕です。
二人がくっついた後の日常。
本編では意地っ張りな和加ですが、二人が付き合い始めたら年の差もあって素直に甘えます。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ