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□【ビター中毒】3
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――夢を見た。
寝起きのぼんやりした思考で、和加は詳細を思い出していた。
幼い自分が、母親でも父親でもない悠介に泣きついて、何かを喚いていた。
彼は面倒な表情をするどころかとても優しい顔をして、小さな背中を落ち着かせるように撫でていた。

(…そういえば)

確か、小五の時に和加は悠介の前で泣いたことがあった。
たった一度きりのことだが、なんだかやけに泣いた事実を覚えている。
それなのに何故泣いたかは思い出せない。
ただ悠介のシャツを強くつかんで泣いた記憶しかない。

「和加?まだ眠いか?」

考えていると、いきなり声をかけられて顔をあげる。

「っわぁ!」

あげた瞬間、吐息が触れ合う程顔が近くにあったことに驚いて、短く叫んでしまった。
男の和加が憧れる程の格好いい顔は、至近距離で見るには心臓に悪すぎる。

「んだよ、人の顔見て叫んだりして」

ムッと眉間にシワが増えても、その魅力は衰えたりしない。
ベッドの上で後ろに下がりながら和加は苦笑する。

「な、なんでもない」

眼鏡越しに目が合った瞬間ときめいてしまったなどと、本人を前にして言えるわけがない。

「…ふぅん。まぁいいけど。眠いならまだ寝てていい」

はぐらかすと、案外素直に悠介は流されてくれた。
和加が起きると悠介は既に起きていて、時刻は昼過ぎを示していた。
こんな時間まで寝ていたことは初めてで驚いた。
そして体も酷い疲労が取れて軽くなっている。
こんな体の調子は久方ぶりだった。

「大丈夫です」

寝ていていいという言葉を辞退して、和加はベッドからはい上がる。

「悠介さんの方が睡眠足りないと思うんですけど」
「俺は元々そんな寝なくともやってけるタイプ。お前は違うだろ。ちっせー頃から眠い時はぼーっとしてたし、ちゃんと起きるにも時間かかってた」

どうしてそんなに細かい事を覚えているんだろうか、和加は不思議でたまらない。
それとも自分が忘れっぽいだけか。
つらつらと悩んでいると、隣の部屋から微かに携帯の着メロがなった。
和加が借りている部屋だ。
慌てて悠介の部屋を出て携帯を取りに向かう。
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