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□【ビター中毒】2
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はぁっ、と小さな赤い唇から、悩ましげな溜息が吐き出された。
造り物めいた美しい顔でのその動作は、教室にいるクラスメイトのほとんどの視線を集めているにも関わらず、目元が微かに腫れている和加本人は全く気付いていなかった。
まだ幼さを残す少年の頭の中は、朝起きた出来事で一杯だったからだ。
あの後、和加が掴んだ服を離せるようになるまで、悠介はただ頭をなで続けてくれた。

『学校、行くだろ?飯にしよう』

子供のような行動をとった事を恥じて俯いていると、立ち上がった彼が静かに笑った。
それは本当に微かだったけれど、強引に和加の思考を停止させてしまうほど甘かった。
けれど時が経っても変わらない彼なのに、何故かその笑みを象った顔は少しの違和感を和加に感じさせた。
どこがどう違うかは、はっきり言えないのだけれど、全く同じと思うとどうしてもしこりが残る。
誰の笑顔を見るよりも安心出来ることには変わらないから、和加はそのしこりをあえて流すことにした。
聞くにも上手い言葉が見つからないし、約四年会ってなかったのだから記憶が曖昧なだけかもしれなかったからだ。

『学校まで車で送ろうか?』

目元に濡れたタオルを押し当てて問いかけてくる悠介に、和加は首を横に振った。

『大丈夫。…昨晩俺、仕事の邪魔したんじゃない?』

何があったかわからないけれど、悠介は多分先程のように側にいてくれたのだろう。彼は少々乱暴だけれど、優しいことは身を以って知っている。

『和加、余計なこと考えるなっつったろ』
『でも』
『和加。…いいか?人間の記憶は案外あやふやだ。無理に思い出そうとして変な記憶が出来てしまう可能性だってある。だから考えるな』

咎めるように名前を呼ばれ、諭すように言われてしまえばもう何も返せなかった。悠介の声に心配が滲み出ていたからだ。
大人しく頷くと、お決まりみたいに頭を撫でられる。

『…悠介さん、頭撫でるの癖ですか?』
『や、丁度手が置きやすい高さでな』

暗に背が低いと言われてふて腐れた。

『まだ成長期です!』

和加は今169pある。高校一年でそのくらいあれば小さいとは言えないのだが、なまじっか悠介が高いせいで隣に立つと見る人に小さい印象を与えてしまう。

『冗談だ。ほら、学校行ってこい』
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