main(BL)

□【アトの話】
1ページ/3ページ

さんざんにあえがされて、嗄れた喉がヒリヒリと痛む。
二人のいろんなもので体中不快だけど、もう動く気力もない。
(それもこれも…)
容赦なく隣で煙草を吸う男が、俺を抱き潰したせいだ。
そう思うとなんだかすっきりした顔の彼にムカついて、俺は小さく唸るように言った。
「…みず」
「はいよ」
命令すれば、その通りに彼は動いた。
傍にあった体温が遠ざかる。その瞬間淋しいと思った。
あんなに距離を縮めて濃い時間を過ごしたのに。
身体が満たされると、次は心を癒して欲しくなる。
何も考えられなくなるほどの強い快楽は確かに好きだけど、今日欲しいのは、この傷を癒す体温なのだ。
だけど弱さを口に出来ず、ただ快楽をねだることになってしまった。
ペットボトルを手に戻ってきた男は、当然のように口うつしで水を与えてきた。
決して深くはない接触。これがもっと欲しいと心が言う。
人とコミュニケーションをとるには、二種類の方法があるらしい。一つは言葉を使うコミュニケーション。もう一つはそれ以外に分類される。
前者の方で伝わるものは、人が思っているよりもずっと少ない。
それを知った時は意外だと思ったけど、こうして軽い接触に気を緩ませる自分がいて本当だなと笑った。
「…もっと?」
動かないと思っていた腕を動かして、彼の腕を掴む。問い掛けに首を振った。
「傍に、いて」
この心の穴を君が埋めて。目で伝えると、優しく抱きしめられた。彼の体温に包まれて、深い深い息をする。じわじわと体温がうつって、彼との境目がわからなくなる。
こうして、俺の傷は彼に癒してもらう。まるで覆い隠すように。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ