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□【大型犬】
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「コーヒーいる?」

出てきた俺を見て、にっこり笑う。
こくりと頷くと、椅子に座るように言われた。
運ばれてきたのは、ミルクを入れたコーヒー。見た目に合わないとよく言われるが、俺はコーヒーにミルクをいれないと飲めない。
言ったことはないというのに、彼から渡されるコーヒーは毎回ミルク入りだ。

「ありがとう」
「いいえー。冷めちゃうから食べてね」
「うん」

進められて朝食に手を伸ばす。男子高校生が作ったものとは思えないほど美味しいのは、もう知っていた。
自炊が出来ない俺としてはうらやましいかぎりだ。

「ねぇ、帰らないでって言ったら帰らないでくれる?」
「…さぁね」

いつもならはっきりとした答えを返してやるけれど、おずおずとした問い掛けについ意地悪をしてやりたくなった。

「何それ、ズルい」
「ごちそうさま」

拗ねた彼をあえて放置して、立ち上がる。寝室に戻り、鞄を肩にかける。

「じゃ、帰るわ」
「帰るんじゃん…」

不満を言い、それでも彼は俺について来る。飼い主が出かける時の犬のように。
靴を履き、扉を開ける前に振り向いた。

「だって言われてないし」
「え?」
「帰らないでって」

ぽかんとした彼は数拍置いて、俺を抱きしめた。

「帰らないで」

彼の匂い、彼の声、彼の体温。ここ数日で忘れられなくなってしまっていた。

「一緒にいてよ。俺のものになって」

性格が素直だと、言うことまでストレートだ。
このまま放って置いたら、こっちがいたたまれなくなるような事を言われそうなので、背伸びして唇を重ねた。
自然と舌が絡まる。

「ま、帰るけどね」
「えー!?」
「だって帰らないなんか言ってねぇもん。じゃあね」

今度こそ玄関を開けて外に出た。
俺は素直じゃないから、彼とした日から他の奴とはしていないとは言えない。
わざと友人のバーに入り浸っていることも言えない。
彼と会うためなんて。
そんなのは絶対教えてやらない。
もうこんなに溺れてしまったのだから、ちょっとした意地悪くらい許して欲しい。

(いつ気付くかなぁ、あの大型犬は)





もうとっくに、俺は彼のものであることに。




End
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