白桃の籠 〜ハクトウノカゴ〜

□純白の壁〜ジュンパクノカベ〜
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本来なら、記憶をすり替えて、向こうの住民にしてしまえたはずだったのに、私は前世を覚えている。

だから、完璧には向こうの住民になれないらしい。



「細かな設定や向こうの住民たちと交わしたことになる会話の内容を全て覚えることは不可能です。

 ですから、向こうの住民にも記憶を植え付けることは出来ません。


 貴女のことは、誰も知らない。
 だから、貴女がこれからどんな生き方をしようと、誰もとがめません、自由です。」


自分の生き方を自分で決められる。
当たり前のことのように聞こえるけど、全ての設定を与えられてしまっていたら、その条件に沿って生きることになっていたんだ。

記憶、あってよかった。




突然、老人の胸元のポケットから

ピピピ… と音がした。




「お、上から貴女の行く世界について説明が来たようじゃ」


と胸元からケータイを出しながら言った。



スマホだ。見かけによらず流行に敏感?この人。





『何て書いてあるんですか?』

と聞いた。


老人は、ゆったりとした口調でこう読み上げた。



「姓名:桃花空

 性別:女

 元居た世界:307番世界

 降ろされる世界:209番世界;三次元      では『黒子のバスケ』と呼ばれる

 場所:本人指定

 備考:ヒト」


黒子のバスケ…だと…!?
私の大好きな漫画の世界じゃんか…!!!!!
今までに発売した単行本全部持ってるよ、全巻揃ってるよ!!!!!アニメも観てるし!!209番世界なんて呼ばれてるんだ。


ありがとう神様っっ……!!!!!!!!!!




「こんな具合だ、訳がわからんだろう?」

ほ、ほ、ほ、と笑う老人に、

『あの、でも、黒子のバスケ知ってますっ、漫画読んでたので…』


すると老人は少し目を見開き、嬉しそうに細めた。


「そう言や、お姉さんもそうだったよ。」

『え?』


「彼女はね、205番―『銀魂』という世界に行ってね、愛読していたって言ってたね…」


そうか、あの人、銀魂に行ったのか…
よかったね。

ジャンプ漫画で一番好きだったもん。


毎週、交代でジャンプ買ってきて、二人で読んでたな…


「因みに、備考にあるように、桃花殿は人間として生まれ変わるよ、良かったねぇ」



そうか、人間とは限らないんだ。









…え、今なんて?

顔から血の気が引いていくのがわかった。

『あのっ…姉、は…』


「安心して、夜兎族になったから」

全身から力が抜けた。
よかった。気持ち悪い天人とかじゃなくて。

あの綺麗な姉上が気持ち悪い天人とかになってたら空死んじゃう。

あ、もう死んでたわ。忘れてたよ。
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