SKET DANCE

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「俺と付き合ってほしいんだ。」


一瞬、思考停止する私の脳。

人のいない校舎裏。

私は知らない人に告白されている。

いや、まったく知らないってわけじゃないけど。

F組の鈴木くん・・・だったよね?

クラス違うし、まともに会話したこともない。

何で私なんだろう?

ひょっとして罰ゲーム…?


「えっと…あの…」

「朝宮さんって、超俺好みなんだよね、顔もスタイルも!美人だし、優しそうだし。学祭で写真部の展示見てさ!写真のモデルしてたよね?あれ見て、いいなって思って。」


なぜだろう。

ほめられているのに、素直に喜べない。

ドキドキいっていた胸の鼓動も少しずつおさまってきた。

よく、

かわいいとか

きれいとか

言ってくれる人がいる。

けど、

正直、素直に喜べない。

みんなが嘘を言ってるように思える。

嘘じゃなくても、好きの一番の理由が「顔」とはいかがなものだろう。

私はそんなにかわいくもないし、綺麗でもない。

みんな、「建前」を言ってるんだと思う。

だから、いつからか、私は人と距離を置いていたのかもしれない。

「心の距離」を。



「それで、ずっと好きだったんだ、朝宮さんのこと。」


学祭からまだ2カ月も経ってないはずだ。

それなのに「ずっと好きだった」と照れたように言う目の前の人が、

私には歪んで映った。


「…ありがとう。でも、ごめんなさい。」

「え?!ダメなの??」


OKしてもらえると踏んでいたんだろうか?

予想外だとでも言うように驚いた彼に、逆に驚かされる。


「気持ちは嬉しいんだけど、お付き合いはできません。」


そう答えて立ち去ろうとすると、呼び止められた。


「椿と付き合ってるって本当なの?!」


その言葉に思わず足が止まる。


「…え?誰がそんなことを…?」

「生徒会長の安形が、俺が告白するって言ったらそう言ってきて…本当なのか?」

「う、嘘です!」


焦って訂正する。

何で、安形くんそんなこと…!


「私と椿くんは付き合ってなんかいません…!」


顔、赤くなってないよね?

付き合ってはいない、

でも、

椿くんは、私の好きな人だ。

それこそ、「ずっと」。

彼とは小学校からの付き合いだ。

一つ年下だが、家が近いこともあり、昔はよく一緒に登下校したものだ。

彼はまじめで、生徒会副会長としても優秀で、

強くて、はっきりしていて、

とても、まっすぐだ。

正義感が強くて、裏表のない彼に惹かれてもう10年近く経つ。

これこそ、まさに「ずっと好きでした」というものだろう。


「じゃあ、いいじゃん。」

「きゃっ?!」


ぐいっと腕を掴まれ、体を壁に押し付けられた。

背中に軽い痛みが走る。


「っ…は、放して!」

「いいじゃん、俺と付き合おうよ」


いつの間にか両手首は壁に押しつけられ、逃げ場はない。


「ちょっ…やめて!」

「なぁ、いいだろ?」


次第に近づいてくる顔に、掴まれた手首。

もう、だめ…


「っ…佐介…!」


泣き出しそうになって出た名前は

本人には届かなかった




…はずだった。


バキッ!!


「ぐあっ!」


鈍い音と、どさっと何かが倒れる音がして、

瞑っていた瞳を開くと、


「桜さん、大丈夫ですか?!」

「…な…んで…」


一番会いたかった人が息を切らして立っていた。


「…っ…椿、てめぇ…!」

「3−Fの鈴木だな。残りの高校生活を穏便に過ごしたければ、即刻ここから立ち去れ…!!」


いつにもまして眼光鋭く、威圧感たっぷりに言う椿くん。

それに怯えたのか、「くそっ」と小さく吐き捨て立ち去る鈴木くん。

目の前の光景が信じられなくて、私は茫然と立ち尽くしていた。


「桜さん、怪我は…?」

「あ、ううん、大丈夫。助けてくれてありがとう。でも、椿くん、どうしてここに…?」

「…送りますから、帰りましょう。」

「え?でも、生徒会は…?」

「大丈夫ですから。行きましょう。」


そう言うと、彼はグイっと私の手を取って進み始めた。


「っ…つ、椿くん!ちょっと、待って…!」


どんどん進む彼。

手を繋がれてドキドキしている私の心臓を破ろうとでもしているのだろうか。

速足で連れられ、息が上がってしまう。


「椿くん…!」


すると、ピタリと歩みが止まる。

少し前を歩く彼の表情は見えない。

でも、俯いている彼の後ろ姿が見え、繋がれた右手に力が込められた。


「桜さんは…」

「え?」

「ボクのこと、嫌いですか?」


え…?


「き、嫌いなんかじゃないよ…!」


慌ててそう答えると、即座に「じゃあ!」と言われた。


「なぜ…ボクのこと遠ざけるんですか…?」

「遠ざけてなんか…」

「なんで、『椿くん』って呼ぶんですか…?」


周りの音が、一瞬消えた。


気づいてたんだ。

私は彼が大好きだった。

でも、

中学卒業後、彼は精神的にもかなり成長して、

強くなった彼に自分なんて必要ないと思い始めた。

だから、


『佐介、一緒に帰ろう!』


だから、


『佐介くん、生徒会頑張ってね!』


だから、


『椿くん』


距離を置いたんだ。

空間的にも、

心の距離も。


私は、彼から逃げたかったんだ。

解放されたかったんだ。

彼を好きなこの気持ちから。


望んでも報われない儚い恋の結末から、

目を逸らしたかったんだ。


春には女子大への進学が決まっている。

もうすぐ、お別れなんだ。

あなたとも、この恋とも。


「ボク…桜さんには名前で呼ばれたいです。」

「え…?」

「さっきみたいに」

「っ…!」


『さっきみたいに』と言われ、先ほど彼の名前を必死に呼んでしまったことに赤面してしまう。

私、さっき、「佐介」って、呼んでた。


「あっ、あれは…」

「あなたにだけは、名前で呼んでほしいんです。桜さんが卒業した後も、これからもずっと。」


どうしていいのか分からず、彼に手を握られたまま、私は俯いた。


「…好きです。」

「え…?」

「ボク…桜さんのことが好きなんです。」


驚きのあまり顔を上げると、

顔を赤らめながらもまっすぐこっちを見る椿くんと目が合った。


「ずっと前から、好きだったんです。」


目の前が歪んできた。


「そして」


目が潤んで、椿くんが、見えない。

せっかく、彼はまっすぐ私を見てくれているのに


「これからもずっと好きです。」


『これからもずっと』だなんて、不確かな言葉なのに、

彼の言葉なら信じられる気がした。


「…佐介…」

「!」

「私も、」


ずっと好きだよ。

今までも、これからも。


そう告げると、

握られた右手がさらに強く握りしめられた。



Call My Name



「…そういえば、さっきどうしてあそこにいたの?」


ふと、先ほどからの疑問を尋ねると、顔を赤らめた佐介。


「か、会長が…」

「会長?安形くん?」

「会長が『朝宮が校舎裏で告られてるけど、お前はいかなくていいのか?』って言ってきて…」

「…」

「それで、いてもたってもいられなくて…」

「そっか…ありがとう。」


嬉しくて彼にお礼を述べるとさらに顔を真っ赤にした佐介。

こんなかわいい彼を見たのはいつ以来だろう。

かわいいから、かっこよく成長した彼。

それでも赤面する彼は可愛くて仕方なくて、

私は笑みを溢した。




********
初椿夢!
もう大好きだ椿くん!!

椿くんなら、年下でも全然OK!
いや、いっそ息子でもいい!(ぉぃ)

ちなみに、安形は桜さんとは結構仲良い。
そして、二人の気持ちに気づいてて、ちょっと後押ししてやった感じです。


2010/07/23


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