Treasure

□◆
1ページ/1ページ





リビングでぐすぐすと鼻を啜りながらクッションを抱えている姿を目にしたのは二度目だった。



「…泣くくらいなら見るなよな」

テレビのリモコンに手を伸ばそうとすると、俺よりも小さな手に取り上げられる。
これも二度目。
馬鹿みたいに泣きながらテレビ画面を見詰める彼女の視界に、俺はいない。
彼女の視界には在来たりな男女のラブストーリーがいっぱいに広がっているのだから。


「ったく、人ん家に遊びに来といてこれかよ」

ドラマみたいな甘いラブストーリーのようにはいかないけど、俺だってそれなりに彼女に夢を見させてやることは出来るのに。
こんな作り話に負けるなんて、ちょっと悔しい。
彼女の手からリモコンを素早く奪い取って、テレビの電源を切った。
彼女が不満の声をあげるよりも先に、それを彼女の手に届かない所に隠して。


「…駿」

「そんな目で見ても駄目。リモコンは没収な」

テレビを付ければ彼女の視線はまたそっちに向かってしまう。
前に彼女が俺の家に遊びに来た時もそうだった。
お昼時にやっていた再放送のドラマに夢中になっちゃって、結局碌に話もせずに一日を過ごしてしまって。
多分、先程感じた既視感はここから来たものだと思う。


「折角二人きりなんだから、テレビより俺を見てろって」

(何を焦っているんだか、阿呆らし…)

彼女の小さな身体を、全身で包み込んで。
ちょっと力を入れ過ぎているかもしれない、彼女の顔が控え目に歪められたのが見えた。


「…駿さ、怒ってる?」

「別に?」

「だ、だって!」

「ちょっと黙ってろよ」

忘れたいんだから、忘れさせろよ馬鹿。

目を瞑って瞼の裏に映ったのは、名前と水町が楽しそうに並んで歩く姿。
別に二人が並んで歩くことに意味は無い。
ただ友人とお喋りをしながら話しているだけに過ぎないのだから。
それを怒る理由も、権利も、俺には無くて、この感情を文字にして表すのならば、つまらない『嫉妬』。
そんな俺の自分勝手な感情に、名前が謝る必要も、水町が謝る必要もない。
それに二人だって立派な『被害者』だ。
一緒に歩いてただけで周りから恋人同士だなんて根も葉も無い噂を立てられて、俺の反感を買うような羽目になって。
勿論今はちゃんと和解したけど、やっぱりちょっと気に食わない。
水町には悪いことをしたとは思うけど、やっぱり俺は正直まだ少しだけ、水町が憎い。



「駿さ、今、何考えてるの?」

「ん、お前のこと」

アメフトやってる時以外は、お前のことしか考えてねぇよ。
なんて、胸を張って言えない自分が情けない。
彼女が憬れるラブストーリーとは程遠い、俺達の恋愛は、周囲からはただの友好関係にしか見えないのだろうか。


「友達みたいな馴れ合いならいらねぇんだよ」

ぎゅう、腕に力を込めて、更にきつく抱いた。
以前の自分はこんなに汚かっただろうか。
他の誰かが憎いなんて思ったことがあっただろうか。
俺だけを見て欲しいなんてそんな我侭で、彼女を振り回したりしただろうか。
昔の方が楽しかったなんて考えたことがあっただろうか。


「駿」

不安そうに伏せられた睫毛を見るとどうしようもなく寂しくなる。
別にそんな顔をさせたいわけじゃないのに、って。

「やっぱり怒ってるの?噂のこと…」

「…怒ってるっていうか、ムカついてる」

怒りの矛先が特定の人物に向いているわけでも無く、その靄をどこにぶつければ良いものか分からず。

きっと暫くはこの靄が取り払われることなんて無いんだろう。






既視感に酔え



好きすぎてどうすればいいのか分からなくなりそうだ。








080413-既視感に酔え
6000、水無瀬さまへ捧げます。
山も落ちも無いとはまさにこのことですね…。
筧君は竹を割ったような性格故にお付き合いもさっぱりしていて、周りから付き合ってるなんて思われなさそう。
それが悩みの種だったりする思春期なお話が書きたかったのです。はい補足終了!
水無瀬さまのみ書き直し申請、お持ち帰りご自由に。
無期限クーリングオフ制度実施中です。

ちなみに『靄』は『もや』と読みます。
…書いた自分が読めなくなりそうだ。


title//畜生


**************


吉岡様、素敵な小説をありがとうございました!!


☆★Special Thanks★☆
吉岡結衣様
狡猾な道化師とワルツ



2008/4/22
水無瀬透



Back


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ