テニスの王子様

□に
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跡部くんの「マネージャーになってもらうぜ!」発言の翌日。

朝登校してすぐ、跡部くんから表彰状を渡された。

文字を追えば『任命状』と達筆な字で書いてあって、男子テニス部マネージャーと書いてあるのが読み取れた。

何に任命されたのかはわかったが、なぜ表彰状に書かれた立派な任命状をもらっているのかはわからない。

それ以上にわからないのが、その光景を見ていたクラスメイトたちがよくわからないままに拍手をしていることだ。

きみたち、絶対何に拍手してるのかわかってないよね?




丁重にお断りします!




そんな苦行があった午前中。

やっと昼休みになったと思って席を立とうとした私を跡部くんが引き留めた。


「今日も屋上でランチか?」

「ううん、今日はカフェテリアで食べる予定だよ。」


昨日はお弁当だったが、岳人が「明日は学食でランチ食おうぜ!」と言ったので今日はカフェテリアで食べるつもりでいた。

あれ…?そういえば、跡部くんっていつも誰とご飯食べてるんだろう?

そう思って無意識に口が開きかけたが、


「いいぜ、俺様も一緒にランチに付き合うぜ」


と跡部くんが言ったので、開きかけた口を一旦閉じた。

もしかして、跡部くん…いつもお昼は一人で食べてたのかな?

隣を上機嫌に歩く跡部くんを見て、私の良心が痛んだ。


「あ!沙羅に跡部ー!」

「あっ、慈郎…」

「跡部も一緒に食べるの?いいよー!」

「うん…亮たちは?」

「クラスのやつ連れてくるって言ってた〜!」

「クラスのやつ?…まぁ、いいや。何食べようか?」

「俺ねーAランチ!沙羅は?」

「私は…Bにしようかな。跡部くんは?」

「俺様はいつものやつだな!」


いつもの?いつものってなんだろう?

そう思っていたら豪華なフルコースが出てきて「すっげー!!すっげー!!」を連呼する慈郎の開いた口を閉じるのが忙しかった。


「げっ!お前らなんだよその豪華なのっ!?」

「あ、岳人と亮。」

「遅いCー!」

「悪い。こいつ連れてきた。」

「あん?忍足じゃねぇか。」

「跡部やないか。」

「あれ?知り合いなの?」

「こいつもテニス部だ。」

「へぇ、そうなんだ。椎葉沙羅です。よろしく。」

「あぁ、忍足侑士や。あんじょうよろしゅう。」

「俺ねー、芥川慈郎!よろしくね忍足!」

「慈郎ーお前はこの間自己紹介しただろ?」

「あれ?そうだっけ?」

「ははっ…かまへんよ。」


少し笑ってそう言った忍足くんは、私の横の席に座って私の顔をじっと見た。


「……あの?」

「ん?あぁ、気にせんでええよ。」

「はあ…」


そう言ったものの、横からの視線がすごく気になる。

どれくらい気になるかというと、左隣にいる慈郎ががっついて食べてて口周りが汚れているんだけど、それを拭ってあげられないくらい気になる。


「……あの?」

「あぁ、気にせんで食べてえぇよ?なんやかわいらしいなーと思って。」

「はぁ…?」

「…おい、忍足。さっきから俺様の沙羅を見すぎだ。」

「ぶふっ!」

「おわっ!亮汚ねぇ!!」

「ゲホゲホッ!わっ、悪い…」


いや…正直、亮は悪くないと思う。

私も吹き出しそうになったけど、軽く喉に詰まったぐらいで済んだ。

爆弾発言をした向かい側に座る跡部くんを見れば、不機嫌そうに忍足くんを見ていた。

視界の端にまだむせ込んでる亮が見えたが、それどころではない。

すると、忍足くんは眼鏡の奥の瞳を少し見開いて「あぁ!」と少しだけ大きめの声で言った。


「あんたが跡部のフィアンセか!」


ざわっ…と音を立てて場の空気が変わった。


「……はい?」

「いやー、跡部から話は聞いてたわ。かわいいし、いい子そうやん。なぁ、跡部?」

「ふん…褒めても沙羅はやらねぇぞ?」


そう言った跡部くんは何故か誇らしげだった。

それはさておき…今忍足くんは何て言った?

フィアンセって聞こえたけどフィアンセってなんだっけ?クラスメイトのことでも友達のことでもマネージャーのことでもないよね?あれ?フィアンセって何だっけ?フィアンセって婚約者のことじゃなかったっけ?そもそもフィアンセって何語だっけ?あっ、フランス語かな?忍足くんはフランス語とか得意なのかな?もしかしてフランス語には婚約者以外の意味あるのかもしれないよね?


「…あの…」

「ん?どないしたん?」

「フィアンセって…どういう意味…ですか?」

「ん?自分、フィアンセの意味わからんの?許嫁っちゅー意味や。」

「あっ、許嫁ですか!よかっ……!?」


再びざわっと音がした後、カフェテリアに沈黙が訪れた。


「……許嫁?」

「まぁ、婚約者っちゅうことや。自分等若いのにすごいなぁ。」


そう言うと忍足くんは笑って口にサラダを運んだ。


「お、おい、マジかよ?」


亮が私の顔を見て尋ねてきたが、質問したいのはこっちだ。

慌てて跡部くんを見たら、彼は紅茶を優雅にすすっていた。

皆の視線が跡部くんに集まる。

ソーサーの上にカップが置かれた、その僅かの陶器の触れ合う音すら響く静寂。

ゆっくりと開かれた形の整った唇は優雅に弧を描いた。


「許嫁っていうのは家同士が決めた約束だ。ただ、俺様は自分で沙羅を選んだ。こいつ以外は認めねぇ。」


跡部くんがそう言って私を見た。

その視線が熱くて目を逸らせなかった…わけではなく、私の頭の整理が追いつかなくて茫然としていただけで目を動かす余裕がなかっただけだ。

ただ、その様子を見た忍足くんは「見せつけてくれるわー」と言って静かに笑った。

岳人の持ってたフォークが指から滑り落ちてカシャンと金属音を鳴らした。

それを皮切りに、周りの音が耳に届いたが、あまりのざわつきが騒音のように頭に響いて痛かった。




にくいです




「お二人さん、にくいわー」と言っている隣の眼鏡男子が憎いです。

あと、この状況で寝ていられる隣の幼馴染みが憎いです。いつの間に寝たんだ。






********


関西弁難しい。



2013/05/07



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