テニスの王子様

□重
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「俺様の女になれ。」

「丁重にお断りします。」

「え?沙羅ってあの跡部と付き合うのか!?よかったな!」

「え?ちょっ、亮!?」

「すげぇな!!スイーツ食べ放題だぜ!!」

「岳人まで!?しかもなぜスイーツ!?」

「えー!沙羅、お嫁に行くのー?」

「慈郎が起きてる!?じゃない!!まだお嫁になんて行かないよ!!」

「俺様はいつでも歓迎するぜ?」

「いや…まず、私の意思を聞いてください…」

「沙羅……幸せになれよ!」

「なーに泣いてんだよ岳人!」

「そういう亮だって泣いてるCー!」

「う、うるせー!!」

「ハハハ!早速式を挙げるぜ!」

「だっ…誰かツッコミーー!!!」




丁重にお断りします!





ジリリリリリ!


「はっ!…なっなんだ、夢か…よかった!」


無意識に伸ばした手が目覚ましを黙らせた。

見慣れた視界には見慣れた天井が映り、安心する自分がいる。

むくりと起き上がると、乱れた髪をかき上げる。


「…学校行きたくない、な…」


さっきまで見ていた夢は非現実のもので実際は起こっていない。

だけど、大して変わらない現実がそこには確かに存在しているのだ。



「よぉ、沙羅。」

「…おはよーございます、跡部くん。」

「あぁ、おはよう。今日の美術はペアでクラスメイトの顔をデッサンするらしいぜ。」

「へぇー…」

「俺様がお前の顔を描いてやる。だからお前は俺の顔を描け。」

「えっ、無理!」

「…あーん?」

「私絵を描くのが苦手なの。跡部くんの顔をひどく描いたら…」


それじゃなくてもペアになっただけで反感買ってしまうのに、彼の顔を描いて似てなかったらなお恐怖だ。


「沙羅…安心しろ。」

「えっ?」

「お前が描いた絵だ…俺様の家宝にする。」

「かほー…家宝!?」

「あぁ、なんならルーブルに…いや、万人に見せるなんて勿体ねぇな。」


跡部くんは顎に手を当てて悩ましげに眉を潜めた。

ついでに私の眉も潜まった。


氷帝学園中等部に入学して一週間。

私は、学校で有名にな彼、跡部景吾くんに気に入られてしまったらしい。

お陰さまで今では跡部くんと合わせて目立つ存在に成り上がってしまった。

さよなら平穏な日々…



「…それで?どうしたんだ?」

「え?あぁ、絵は描いたよ。そして立派な額縁に入れられて跡部くんの執事さんがアタッシュケースに入れて運んでいきましたよ…って、ちょっと亮!髪の毛結ぶなら私が結ぶ!」

「いいよ!もう俺だって自分で結べるっつーの!!」


昼休み。

クラスが離れた慈郎と亮と岳人と一緒に屋上でご飯を食べている。

カフェテリアもあるけど、今日は天気いいし、皆お弁当だから屋上で食べることになったのだ。

ちにみに学校で亮の髪が乱れたときは私が結ぶのが定例。


「しかし沙羅って本当に跡部に気に入られてんだなー!」


ぎゅうっ


「いでででっ!!沙羅!痛いだろ!!」

「あっ、ごめん。」


思わず力を入れて亮の髪を引っ張ってしまった。


「…なんで気に入られてるのかよくわかんないけどね。」


跡部くんと会ったのは入学式が初めてだ。

海外に行ったことはあるけど、跡部くんがいたイギリスには行ったことないし。


「一目惚れ、とかだったりして!」


岳人が笑いながら言ったが、私は笑う気にはなれなかった。


「…あ。そういえば、皆学校のテニス部に入ったんだよね?」

「あぁ。沙羅も入るだろ?」

「私は…クラブでいいや。」

私たちは幼稚部の頃からテニスクラブに通ってた。

中学生になるとほとんどの人がクラブを辞めて学校の部活に入る。

私もそのつもりだった。

だった、んだけど…


「ほら…テニス部とか入ったら…また大変なことになりそうだし…」

「「あ」」


この学校で私が跡部くんに気に入られていることは周知の事実。

今のところ嫌がらせなどは受けてないが、確実に女子から浮いてる。


「えー!!沙羅、クラブに残るの!?」

「うん…ほら慈郎、ご飯粒付いてるよ。」

「聞いてないC!」

「今初めて言ったもん。あーもう、お弁当溢れちゃうよ!」

「俺、沙羅がクラブに残るならクラブに残る!」

「はぁ!?お前もう入部届けだしただろっ!?」

「一緒にテニスやるって約束したじゃねぇか!!」

「やだ!」

「やだ、じゃないよ。慈郎には学校のテニス部に入ってもらわないとダメなの。」

「なんで!?」

「ボレーがうまい選手が神奈川の学校にいるの。都内にもボレー&レシーバーの強い選手もたくさんいるし。試合するには学校の部活に入った方が確率上がるんだよ。」

「え!?そうなの!?」


慈郎の顔が綻んだ。


「しかも、お前クラブでも寝てるからクラブ費用もったいねーしな。」


亮がため息をつきながら言うと慈郎がへらっと笑って誤魔化した。


「しかし、沙羅の情報収集力すげーな!」

「んー、まぁ一応。テニスコーチの娘だしね。」


私の家はテニスクラブを経営している。父親は元プロテニスプレーヤーで今はテニスコーチ。まぁ、よくある話だ。

小さい頃からラケットを持たされていたのでテニスの腕はまあまあだと思う。けれど、自分としては将来選手よりインストラクターやスポーツ技能を管理をする仕事に就きたいと思ってる。

だから別にテニス部に入らなくてもいいんだ…うん。


そう自分なりに納得して出した決断だし、嘘偽りはない。

でも、不安は残る。

私、あと三年、無事にいられるかな…


「じゃあ沙羅も学校の部活に入ればいいじゃん!!」

「慈郎ー、お前話聞いてたか?」

「慈郎も沙羅離れしろよー!」

「嫌だ!沙羅がいないなら俺クラブに残る!ちゃんと起きてるから!」

「慈郎………そんなこと言ってもダメ」

「ケチ!」

「あーはいはい。もうそういうこと言う人にはポッキーあげません。」

「沙羅〜」


後ろから慈郎が抱きついてきた。

日常茶飯事だから今さら何も思わないんだけど、ただ背中が重い。


「まるで親子だな。」

「どうすんだよー慈郎の面倒看れるの沙羅しかいないぜ?」

「…二人に任せた。」

「「無理!」」

「あはは!速答されたC!」

「笑い事じゃないからね。」


はあーとため息をつくと、岳人が閃いたという顔をした。


「あ!俺いい…」
「却下」
「まだ言ってないぞ!?」

「あ!俺も閃いた!テニス部のマネージャーやればいいじゃん!」

「っ、慈郎!それ俺が言おうとしたやつ!!」

「いいじゃん!俺、沙羅と一緒の部活がいい!」

「だから、それは無理なんだって!」

「なんで?」

「なんでって…」


入学した翌日、跡部くんがテニス部に入ると言う話を聞いている。

これ以上の接近は避けたい。私は平穏な生活を送るのだ。


「確かにうちのテニス部、女子マネージャーいねぇもんな」

「あぁ、女子は入れないのかもな…」

「えぇ!?そんな、俺どうすればいいんだよー」

「どうすればって…部活でテニス頑張ればいいんだよ…」


そう言うと慈郎が不満気に頬を膨らませた。

背中にかかる重みが少し増した。

その瞬間、


「話は聞いたぜ!」


バンッと屋上のドアが勢いよく開いて、よく通る声が響いた。

肩をびくりと震わせた私たちは勢いよくドアに顔を向けた。


「確かに氷帝学園中等部テニス部に女子マネージャーはいない。今まで暗に禁止されてたようだが、俺様がトップに立ったからにはルールは俺様が決める!沙羅、お前には男子テニス部のマネージャーになってもらうぜ!」

「なっ!?そ、そんな…!!」

「拒否権はねぇぜ?あーん?」

「マジで!?やったー!!沙羅と一緒だー!」

「…逃げ道ねーな。」

「沙羅、諦めろ。」

「そうとなれば早速監督に交渉だ!」


高笑いをしながら跡部くんは去って行った。


「沙羅ー!跡部っていいやつだね!」

「…えぇ…そうですね…」


力の抜けた体を支えるように両手を地面についた。厄介なことになってしまった。


「沙羅…頑張れ。」


亮が私の頭に手をポンと置いた。

顔を俯けてる私には亮の表情は見えない。

私はただ自分の影で暗くなったコンクリートの地面を見つめていた。




重たいです




思わず呟いた言葉。

それが耳に届いたらしい岳人が

「おら、慈郎!沙羅が重いってよ!」

と言って私の背中にのし掛かっていた慈郎を剥がしてくれたが、私の気持ちは相変わらず重かった。






*********


甘えん坊な慈郎が書きたかった


2013/05/01


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