テニスの王子様
□丁
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氷帝学園っていう学校知ってます?
私こと、椎葉沙羅は今日からこの氷帝学園中等部の生徒です。
ちなみに先月まで氷帝学園幼稚舎に通っており、幼い頃から一緒の芥川慈郎と宍戸亮と日向岳人と和気藹々と日々を過ごしておりました。
今日からの中等部生活も、また平穏な日々を過ごしていけるものだと信じて疑いませんでした。
…彼に会うまでは。
丁重にお断りします!
「椎葉沙羅、お前は今日から俺の女になれ」
………整理しよう。
今は春だ。
春は新生活で心機一転、意気揚々とした気持ちで爽やかな風に吹かれる季節。
ただ、暖かくなると頭のネジが弛みやすくなるらしく、ちょっと変わった人が出やすいから気を付けなさいと担任の先生が注意喚起していたのは去年の春。
なるほど、こういうことかと実感した今春。
ところでこの人は誰だっけ?と思い返してみると、すぐに開くことのできる記憶の引き出し。
2、3時間前に新入生挨拶でぶっ飛んだ新入生挨拶をして高笑いしていた跡部財閥御曹司の人だ。
みんなが絶句している中ずっと笑っていて、何がそんなにツボを突いたのだろうと疑問に思わずにいられなかった入学式。
それが終わって、みんなが彼のプレゼントしてくれたらしい高級設備に感嘆の声をもらしていた頃、私はいつの間にか消えていた慈郎を探し回っていて。
やっと見つけて戻った教室の自席の隣が、今、目の前にいる彼。
ホームルームが始まって、各自クラスメイトに自己紹介して、それが終わって、それで…
「おい。どうしたんだ?」
「…ちょっと待ってくださいね。どう整理してもさっきの台詞に行き着く過程がないんですが…あ!」
「なんだ?」
「聞き間違いか!」
「は?」
「すみません、私聞き間違ってたみたいで…もう一回言ってもらってもいいですか?」
「俺様の女になれ。」
「あれ?おかしいな…もう一回?」
「何度でも言ってやるぜ。俺様の女になれよ。」
「うーん?私って耳悪いのかも…明日健康診断だし、耳をよく診てもらおう…じゃあ、お先に失礼します。」
頭を下げて背を向ければ、後ろから声がかけられる。
「おい、ちょっと待て。答えを聞かせろ。」
「…え!?答え!?今私って質問されてました!?すみません!私の耳、聞こえ悪いみたいで、質問じゃなくて命令形に聞こえたんですけど、質問だったんですか!?」
「…ふっ。まぁ、いいぜ。どうせ返事は1つに決まってるからな。敢えて聞くまでもねぇだろう。」
命令形なのに返事を求めてきて、しかも答え聞かなくてもわかるってなんか矛盾してない?
というか、この人の言ってる言葉が日本語じゃない気がしてきた。でも英語でもないよね。英語は得意なんだよね私。
あ!確か、自己紹介でドイツ語得意とか言ってた気がする。ドイツ語かー難しそう。
そう言えば慈郎は「特技はジョジのスタンド名が言えること!」って言ってたけど、慈郎の特技は寝ることだよね。あんなに寝れないよね普通。
「あっ!!思い出した!!」
「…ふっ、そうk」
「慈郎!!」
「…あん?」
「すみません、私慈郎を迎えに行かなきゃ!!じゃっ!!」
「…お前は…」
「え?なんですか?」
「…いや、なんでもねぇよ。気に入ったぜ、椎葉沙羅。」
「え?ちょっ…!?」
急に左手が引っ張られて、爽やかな香りが鼻を擽る。
あ、この香り、なんか……
そう思った瞬間、柔らかいものが手の甲に降ってきた。
「えっ!?」
それが目の前の彼の口づけだと気がついた瞬間、心臓が激しく震えた。
「お前は今日から俺様の恋人だ。」
「なっ…」
「拒否権はねぇぜ?」
中学1年とは思えない台詞と声色に、私の思考が戸惑う。
今、私は、命令?いや、告白?求愛?をされているということなのかな?
どうやら私の耳は悪くないらしく、遠巻きに私たちを見ていたクラスメイトたちから「キャー!」という声がうるさく耳に響いた。
どうやら先程の「俺様の女になれ」も聞き間違えではないのだろう。
「ということは……よかった!耳悪くなってなかった!」
「…あん?」
「よかったよかった!さて行かなきゃ!」
「ちょっと待て椎葉。」
「あっ、そうだった!跡部くん!」
彼の手から逃れて真新しい鞄を持つと、後ろにいる彼を振り向いて笑顔で言った。
丁重にお断りします
春は変な人が多いな!
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とうとう始めてしまった跡部連載。氷帝大好きです。
2013/05/01