アイシールド21

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夕日で紅く照らされたグラウンド。

一日のハードな練習を済ませたアメフト部員たちは、汗と熱気を放ちながら座り込んでいる。

彼らを見ていると、こちらまで同じ練習をこなしたような気持ちになってくる。

そんな彼らに清潔なタオルとドリンクを渡していく。

みんな喜んで受け取ってくれる。

「こんなかわいくて優しいマネージャーがいてくれて俺たち幸せだよ」

部長が私にかけてくれる言葉に他の部員も共感して賛辞をくれる。

正直、嬉しい。

自分がアメフト部の役にたてているんだ。

…でも


満たされない渇望が、確かにある。


マネージャーの仕事は決して楽ではない。

朝早くから夜遅くまで部活に参加し、部員たちのサポートに徹する。

楽ではないが、同時にやりがいも使命感も感じている。

チームの一員として誇りを持っている。


でも……


「長谷川…?」

グラウンドの遥か向こうの空を眺めていた私の背中に声がかけられる。

「筧くん」

「どうしたんだ?」

「ううん、何でもないの」

笑顔でそう返すと洗い立ての洗濯物を詰め込んだカゴを抱え歩き出した。


「持つよ」

「え…でも…」

「いいから、貸せって」


そう言ったかと思えば、ひょいとカゴを奪われた。


「ありがとう」

「気にするな」


優しい彼に奪われた洗濯カゴを見つめながら、ため息と同時に言葉が溢れた。


「いいな…」

「え?」


不意に溢れた言葉に筧くんが立ち止まる。

私は「あ、ごめん」と焦って謝り、駆け足で筧くんに並ぶ。


「どうしたんだ?なんか悩んでるんだろう?」

「いやいや、大したことでは…」


苦笑いしながらそう言ったが、


「俺でよかったら聞くよ」

そう彼に熱心に聞かれ続けて、とうとう根負けしてしまった。


「…えっと、じゃあ言うけど…」

「うん」

「…笑わない?」

「笑うわけないだろ」

「…実は…」


私は少し早く歩いて、筧くんより前を歩く。


「私…アメフトやりたいの」

「え…?」

「でも、男子に混じってアメフトやるのは難しいし、別にアメフトにこだわってるわけでもなくて…何て言うか…」


いざ切り出してみたが、適切な言葉が出てこず、もどかしい。


「みんなと…マネージャーとしてじゃなくて、選手として頑張れたらよかったなぁって…」


私の非力な体がアメフトに向いてないことは承知済み。

マネージャーとしてみんなの「一員」として存在していることは、私の誇り。

でも、

みんなと選手として汗を流せたらなぁ、って。

ただ、そう思っただけ。


筧くんは、ぽつりぽつりと紡ぐ言葉に耳を傾けてくれていた。

あまりに静かで、恥ずかしさでうつむいていた私は耐えられなくなり、


「あーあ!私も男に生まれたかったなぁ!」


と冗談混じりで顔を上げて言うと、


「それは困る!!」


と筧くんが突然大声で言ったので、思わず固まった。


「…え?」

「…あっ…い、いや、そのっ…!」


ポカーンとした私と、真っ赤になって焦ってる筧くん。


「か、筧くん…?大丈夫?」

「おっ、俺はっ…!」

「は、はい…?」

「っ…俺は、長谷川が女として生まれてきてくれてよかったと思ってる!」

「え…」

「もし長谷川が女として生まれてなかったらマネージャーとして誘われることもなくて、出会えてなかったかもしれないし…!」

「う、うん」

「何より…俺は長谷川がす…す…!///」

「『す』…?」

「すk「筧〜!長谷川〜!」

「え!?み、水町くん??それにみんな…」

「筧先生、早く着替えて帰りましょうよ〜」

「なぁなぁ、みんなで帰りにハンバーガー食って帰ろうぜ!」


バタバタと駆け寄ってきた部員たちに、今までの静寂は掻き消された。


「あ、ごめんね。すぐ終わらせるから…」

「じゃあ、みんなでさっさと終わらせて行こうぜ!」

「筧先生、俺が持ちます!」

「いや、僕が…!」


ワイワイと騒ぐみんな。

いつもの光景。

その中に、当たり前のように自分がいる。

それが、なんだか改めて感じられて、

くすぐったくて、嬉しくて、

さっきまでの悩みなんか吹っ飛んじゃって、

思わず、笑みが溢れた。


私は女として、マネージャーとして、みんなの仲間として頑張る。


そう感じた、夏の夕暮れ。

かけがえのない、


青春の1ページ



(…あれ?そういえば筧くん、何か言いかけてなかったっけ?)


「み〜ず〜ま〜ち〜!!///」

「うぉっ?!なんで筧キレてんの?!」




************
090913


これは筧夢…と呼べるのか?!

純情筧くんを書いてキュンとするつもりが、ほのぼのに…!

どこでどう間違ったやら…orz



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