アイシールド21

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「ん……夢か…」


懐かしい夢を見ていた。

あれは確か二年生の夏だった。


「いつの間に寝ちゃってたんだろう…」


どうやら机に伏したまま寝てしまっていたらしい。

あくびをしながら背を伸ばせば、頬を涙が滑り落ちた。



今思えば、高校三年間はあっと言う間だった。

その中で、私が彼と幼馴染として過ごした日々は数える程しかなかった。

卒業式の一か月前、私は清十郎に卒業後アメリカに行くことをようやく伝えた。

彼は「そうか」と一言言ったきり、何も口にしなかった。

それが有難くも、切なかった。

あれからもうすぐ二ヶ月。

季節は巡り、雪が降っていた空は桜の映える青空になっていた。

アメリカ出発まであと4日。


破壊神と創造主
ACT.5 -造る人-



「よお、ドクター!今日はお前にいいもん持ってきてやったぜ。」


ケセセセと悪魔のような笑みを浮かべた彼が久々にラボを訪れたのは、アメリカへの出発が間近に迫った頃だった。


「……今日は何を持ってきたの?」


盛大にため息をついて、勝手に入り込んでソファーに座りこむ彼の元へと足を運べば、悪魔のような青年…泥門高校を先日卒業した蛭魔くんは、ガシャンと音を立てて荷物を置いた。


「これ…携帯?」

「そうだ。これ全部パーツごと分解してくれ。」

「全部?!こんなにたくさんは無理だよ!」

「あぁ?!お前なら一日でやれるだろ?」

「…今作ってるものがあるの!」

「作ってるもの?」

「うん…アメリカに行くまでにどうしても作りたいの」

「…いつになくマジじゃねぇか?」


そういって笑った蛭魔くんはポケットからガムを取り出して口に運んだ。


「まぁ、お前はいつもマジだったけどな」


立ち上がった彼は私の机の上に目を向けた。


「完成するのか?」


その言葉に不安がよぎった。


「…完成させるよ」

「ふーん…」


顔を上げれば蛭魔くんは私を見つめていた


「…無理って思ってる?」

「いや……それつくるついでにもう一つ作んねぇか?」

「え?」

「なぁに、お前と俺なら半日で作れるぜ」

「ちょっ、何を…」


そういうと蛭魔くんは私の頭に手を置いた。


「大切な幼馴染にやるんだろ?」

「…なんでわかったの?」

「あー?お前ずっと作るって言ってたじゃねぇか」


蛭魔くんは座り込むと袋の中の壊れた携帯電話を取り出し、ドライバーで分解し始めた。


「『それ』にはついてないんだろ、電話?」


蛭魔くんの言う『それ』は私が今作っているものだ。


「…なんでわかるの?」

「ま、普通はつけるんだろうが、アイツが普通じゃないしな。ていうか前に設計図見た」

「えっ!?いつの間に!?」

「必要最低限ってとこだろ?省けるだけ省いた結果だ。」

「だって…機能たくさんあっても使いこなせないだろうし。携帯だって必要ないって言ってたし」

「…本当にそうか?」

「え?」


聞き返したが蛭魔くんは答えなかった。

静かな平日の昼間。

時計の音と蛭魔くんが手元で携帯電話を分解するわずかな金属音しか聞こえてこない。


「…どういう、意味?」

「……いいから、手を動かせよ。間に合わなくなるぜ、ユリアちゃん?」


にやっと笑った蛭魔くんだったがその目は真剣だったから、その意味は終わってから聞こうと飲み込み、私も座って作業に取り掛かった。


「…できたか?」

「うん…」


蛭魔くんの宣言通り、半日もかからずに出来上がった。


「でも…これさ、かなりスペック低くない?」

「何言ってんだ。無駄を省いて特化したハイクオリティーだろうが」

「でも…」

「これをどう使うかはアイツ次第だ」


そう言ってできたばかりの『それ』を手慣れた手つきで操作し、ぽいっと私に向かって投げた蛭魔くん。

慌てて受け取ると、


「それ、ロックかけてるからいじるなよ」

「え?」

「いいからそのままアイツに渡せよ。」


頭の中はハテナマークで埋め尽くされる。

蛭魔くんは頭がいい、けど、何を考えているのかわからない。


「じゃあ帰るわ」

「…蛭魔くんの用事はよかったの?」

「別に…用事はもう済んだ。また日本に帰ってきたときにオネガイしてやるよ」


お願い…命令の間違いではないのか。

そんなことを考えながら帰ろうとする彼を見送るためにドアへと足を動かした。


「…初めて会ったときから思ってたけど、蛭魔くんって人のことよく見てるよね」

「お前は相変わらず進のことしか見てねぇけどな」

「…幼馴染だから」


それ以上ではない。

もしかしたらそれ以下の関係になってしまったのかもしれないけど、私はそうなっていると認めたくはなかった。


「それだけか?」

「え?」

「…壁、作ってんじゃねぇのか?」

「……」


彼が何を言っているのかわからない。

頭が理解しようとしないのは私のIQが彼より低いからなのだろうか。


「俺なら、ほしいモノは全部手に入れるけどな」


そういって笑った目の前の悪魔の顔はいつになく優しかった。



破壊神と創造主
(私は間違っているのでしょうか)



ACT.5 -fin-
2014/03/15



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