アイシールド21

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「高い所が好きだから」


そう言ったのは嘘ではない。

高い所から見渡す町並みはきれいだし、夜は宝石を散りばめた海のようにきらきら光っている。

だから、高い所は好き。

だから、私はいつも学校の屋上にいる。


私の学校、巨深は高層ビルが立ち並ぶ街中にあるため、同様に高いビル状の構造になっている。

だから、屋上からの眺めは壮観。

もちろん、冬は風も強くて寒いんだけど。

でも、好きだからここで年を越したいな。

そう思って、ここで手すりに肘をついて今年最後の夜景を眺めている。


現在、12月31日23時50分


あと10分で今年は終わってしまうから、きっと地上は期待と焦燥に満ち溢れてることだろう。

けれど、ここにはその賑わいは届かない。

誰もいない、私以外。

空は漆黒に包まれて何も見えない。

きっと街が明るすぎて、星空が見えないんだ。

残念。


真っ暗な天と眩い下界。

その中間に位置する私は、世界から切り離されたような静寂に包まれている。


あと、8分。


今年ももう終わりかと思うと名残惜しい気もする。

後悔してることもある。


何を、って?

それは、自分の愚かさ。


あの人に思いを告げてしまったことを今日ほど後悔している日はない。


告白したのは、昨日。

アメフト部はもちろん部活だったので、必然的にマネジャーの私もベンチに座って記録整理をしていたら、偵察だという他校の彼が現れた。

前から彼に惹かれていた私は、制服姿でもユニフォーム姿でもない私服姿の彼にどきどきしながら、

「明日は何するの?部活?」とか

「泥門も皆で初詣に行くの?」とか

「初めて私服見た、かっこいいね」 とか

そんな話をしながら、内心バクバク言う心臓の音が彼に聞こえないか心配してて、

さっきまで数字を記入していたペン先は意味もなく紙の上をさ迷っていて、

寒いグランドの風が涼しいと感じてしまって、

あなたを見つめていたいと思うけど熱っぽくなった瞳では見つめることはできなくて、

冷たい地面に視線を落としていた。


するとあなたが、ガムで風船を作りながら、


「お前は屋上が好きなのか?」


と唐突に聞いてきたから、素直に、


「高い所が好きだから」


と戸惑いながら答えれば、あなたは素っ気なくふーんと言うだけで、

いろいろわからなくなった私は何をテンパったのか、


「でも私が一番好きなのは蛭魔くんだから!」


と叫んでしまい、珍しく驚いた彼の顔を拝んでしまった。

真っ白になった頭では自分が何を言ったか理解するまで時間がかかり、何を言ったかやっと理解できた時には、彼の姿はどこにもなかった。


何も言わず帰ってしまった彼。

思わず本音を告げ、固まってしまった私。


彼は呆れて帰ってしまったのだろうか。

そして、私の淡い恋は砕け散ってしまったのだろうか。

わからないまま一日を過ごしたが、今日になって省みてみると、やはりやらかしたとしか言いようがなかった。


言うつもりなかったのに。


叶うはずのない恋だとわかっていた。

友達として見られていたかは定かではないが、少なくとも試合や合同練習の時とかには話しかけてくれていた彼が大好きで、

それ以上の幸せなんか望んでいないつもりだったけど。


あと5分。


あと5分たったら、新しい年を迎える。

新しい年になったら、もう過去は振り返らない。

だから、あと5分だけ。

静かに、独りで泣かせて。



そう思って瞳を閉じれば、大きな涙が溢れ落ちた。


そして再び瞳を開いた瞬間、

視界に映ったのは輝くネオンではなく、

激しい光に包まれた私の陰だった。


カッと強すぎる光が私の背中から浴びせられたかと思えば、強風と騒音が私を襲う。


「なっ!?」


手をかざしながら後ろを振り向けば、激しい風とものすごい音に包まれ身体が揺れた。


強い光と音と風を発しているのがヘリコプターだと気がついた時には涙は乾いてしまっていて、

私は激しく動揺した。


「おい!」


屋上の数メートル上に滞空するヘリから投げ掛けられた声は僅かにしか聞き取れなかったけど、

今一番聞きたい声で、

私は必死に姿を捉えようと、眩い光の中目を凝らした。


「掴まれ!」


バタバタとけたたましい音をたてながらヘリが真上に上がると、やっと眩い光から解放されて、

かわりに、ヘリから垂らされた縄ばしごに捕まった彼の姿に目を奪われた。


「ひ、蛭魔くん!?」

「驚いたか?」

「どっ、どうしたの!?なんで!?」

「ほら、行くぞ!」


混乱し続ける私にすっと伸ばされた彼の左手。

その白い指先が暗闇によく映えた。


「え!?どっ、どこに行くの!?」

「さっさとしやがれ!」

「えぇっ!?あ、ちょ、待っ、て!!」


慌てて掴んだ彼の手は冷えていて、でも放したくなくて、

しっかりと手を掴んだ。


すると、ぐいっと腕を引っ張られ、身体がふわりと浮いた。


何これ、夢?

夢にしては冷たすぎる風に興奮する私の胸。

彼に支えられながら、ヘリに乗り込むと、急上昇する機体。

何が何だかわからないまま、空高くに連れていかれる私。

隣の彼は平然とした様子で窓から下界を見下ろしている。


「あ、あの!蛭魔く…」

「…高い所、好きなんだろ?」

だから連れてきてやったんだ、感謝しろよ?

と、ニヒルな笑みを浮かべた彼に、ときめく私。


「…どうして?」


やめて、期待させないで、

と嬉しさと悲しさが一気に胸から溢れ出す。


「…たまにはこういう年越しもいいだろう?」


真意が掴めなくて戸惑ったが、ツンとそっぽを向いてしまった彼の尖った耳が赤くなっているのを見た瞬間、嬉しさのあまり涙が流れた。


すると、

「泣いてねぇで夜景見やがれ!」

と怒られた。


それでも幸せで、私は夜景ではなく、彼を見つめていた。


あと1分。


今年が終わって、来年になった瞬間、またあなたに言おう。


私は今年も蛭魔くんが好きです、と。


ヘリがより高く上昇すれば、新しい世界が幕を開いた。





FLY HIGH

幸せの絶頂まで導いて





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初蛭魔!偽物すみません!!結局二人は両思いだったってことで…orz

ウチの蛭魔さんは結構純情みたいです(笑)突然告白されてびっくりしすぎて真っ赤になっちゃったから逃げてしまったり、好きな子のことはばっちり調べておいて奇想天外なサプライズ考えてたりとか…あああ!補足しないとわかりにくくてすみません!!

お読みいただきありがとうございました!


2010/12/31


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