RKRN 1年

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雲ひとつ無い快晴の朝。

パン!という音を立てて洗濯物を広げ、竿に干す。


うん、今日も良い天気だ。


洗濯物を干し終わり、紺の着物が風に揺られるのを見上げる。

うーんと背を伸ばすと、後ろから「おーい!桜ー!」と声がかけられる。

その声にぴくりと体が反応する。

振り向く前に誰の声かわかった私は、笑顔で振り向く。


「おはようございます、若旦那!」


こちらに駆け寄る若旦那に笑顔でそう言えば、若旦那は笑顔で「おはよう」と返してくれた。


「なぁ、桜。今日は馬を走らせにいかないか?」

「はい!喜んで!!どちらまで行きますか?」

「今日はちょっと遠出しようかと思ってるんだけど…」


そう言うと若旦那はどこか照れたように笑った。


「わかりました。あ、じゃあお弁当を用意してきますんで、ちょっと待ってくださいね。」

「うん!じゃあ、俺は馬の用意をしておくよ!」


そう言って若旦那は笑顔を見せる。

若旦那の笑顔は太陽みたいに眩しい。

その笑顔に胸が温かくなって、私も「はい!」と笑顔を溢した。





台所でお弁当を作っていると後ろから声を掛けられる。


「遠駆けに行くのか?」

「あ!親方!」

「団蔵の奴がやけに浮かれて馬を準備してるかと思えば…なるほどねぇ。」


親方…加藤飛蔵さんは若旦那のお父さんで、この加藤馬借組合を取り仕切っている。

親方はにやりと笑って、作りかけのお弁当を眺めた。


「すみません、少しお暇をいただきます。お昼ご飯は用意して行きますんで…夕飯までには戻りますね。」

「今日は仕事も休みだし、のんびりして来ていいぞ…って言ってやりたいところだが、あんま遅くなると清八が心配するからな。」


そう言って親方は苦笑いを浮かべた。

清八というのは私の兄だ。ちょっと心配症な私のお兄ちゃん。

お兄ちゃんが馬借として働き始めてから私もここで働かせてもらっている。

私は若旦那と同い年だから、親方も私を娘のように可愛がってくれている。


「はい、暗くならない内に戻りますんで。お兄ちゃんにも言っておきます。」

「おう。」


親方は笑って、ひょいっと玉子焼きをつまんで口に入れた。


「うん、うまい。」


その言葉に嬉しくなりながらも「つまみ食いはダメですよ!」と言って、お弁当づくりの手を進めた。





「では、親方、お兄ちゃん行ってきます。」

「おう、気を付けるんだぞ。」

「若旦那、桜をよろしくお願いします。」

「うん。じゃあ、行ってくるよ。」


そう言って、若旦那と私はそれぞれの馬を走らせた。


「さて…今日は赤飯だな。清八、酒買ってきてくれ。」

「え?何かめでたいことでも?」


私たちの後姿を見送りながら、親方とお兄ちゃんがそんなことを話しているなんて、

私と若旦那は知る由もない。






「桜!あの丘の上まで行こう!」

「はい!」


山道を通り、草原に出て、馬を今まで以上に走らせる。

ちらりと横を見れば、若旦那の一つに束ねた長い髪がたなびくのが見えた。


若旦那はかっこいい。

小さい頃から笑顔が素敵で、優しかった。
年に数回帰ってくる度に私と遊んでくださる。

帰ってくる度に若旦那は成長していて、15歳になった今では背もかなり大きくなり、体は逞しく成長している。

声も低くなり、顔も大人びて凛々しくなっている。

馬に乗る姿も前より美しく、うまくなっている。

それでも若旦那の笑顔も優しさもまったく変わらない。

それが嬉しくて、私は頬を緩めた。




丘の上に辿り着き、馬の速度を落とせば、視界に草原の若草と空の青が広がる。


「うわぁー!景色いいですね!」


感嘆の声を上げれば「だろ?」と若旦那が微笑んだ。


「よし、この辺で馬を休ませよう。」

「はい。」


馬から降り、木に馬を繋ぐ。

そして、景色の良い場所に移動し、そこでお弁当を広げた。


「うまい!桜の料理は上手いなー!」

「ふふっ、ありがとうございます。」


もぐもぐとおにぎりを頬張る若旦那は何だかかわいい。


「この玉子焼きも美味い!」


玉子焼きを口に入れ、そういう若旦那はやはり親方の息子だと思い、思わず笑ってしまった。


「ん?どうした?」

「いえ、若旦那も親方も玉子焼きがお好きだなと思って」


玉子焼き自体もそうだけど、玉子焼きの味付けも二人は好みが一緒。

それが微笑ましい。


「だっ、だって桜の作る玉子焼きがうまいから…!」


慌てたように言う若旦那は、照れているのか顔が赤い。


「ふふっ。ありがとうございます。」


素直に嬉しく思い、若旦那の頬についた米粒を指でそっと取りながら微笑んだ。


「…あっ、あのさ、桜…」

「はい?」

「そっ、その…」

「若旦那?どうしたんですか?」

「い、いや、あの…」


どうしたのだろう、急に俯いてしまって


「おっ、俺の!洗濯物…!」

「洗濯物?あぁ、若旦那の服でしたら今朝洗濯しました!前はあんなに小さかった服ももうあんなに大きくなっていて…そういえば、また大きくなられましたか?」

「え?あ、うん、去年よりだいぶ伸びたみたい…って、そうじゃなくて!」

「え?」

「えーっと、あの……俺に玉子焼きを作ってくれ!」

「はい?…じゃあ、帰ったらまた作りましょうか?」

「だぁあああ、違う!違うんだ!!俺の馬鹿ぁああ!!」


急に仰け反っり、頭を抱える若旦那に驚きながら茫然と見つめる。


若旦那…どうしちゃったのかしら?


「わ、若旦那…?気分がすぐれないならもう戻りましょうか?」


そう言いながら若旦那に手を伸ばせば、その手が掴まれ、びくりと肩が震えた。


「若…」

「桜!おっ、俺を『若旦那』じゃなくて…『旦那』にしてくれ!!」


こっちを見つめながら叫んだ若旦那の顔は真っ赤で、私は驚いた頭で若旦那の言葉を噛み砕こうと思考を巡らす。


「は、はい…若旦那がそれでよろしければ…?」


そう言えば、目の前の若旦那の顔がより一層赤くなった。


「まっ、マジで…?」

「はい…『若旦那』ではなく、『旦那』ってお呼びすればいいんですよね?」


そう言えば、若旦那の顔が固まった。


「ちっ…違うんだぁあああ!!」

「え?え?じゃあなんと…?」

「いや、呼び方じゃなくて…桜…」

「はい?」

「よ…嫁に来て…ください…」


若旦那は草の上で正座すると深々と頭を下げた。


「………」

「…桜?」


恐る恐る顔を上げた若旦那。

その瞳に映った私の顔は真っ赤だっただろう。


「わ、私でよろしければ…」

「っ…よっしゃああああ!!」


喜んだ若旦那は私が大好きな笑顔を浮かべ、真っ赤に染まった私の体を抱き締めた。




プロポーズ大作戦!




「こっ…これは…?!」


夕暮れ時に若旦那の家に戻れば、何故か馬借組合総出の大宴会が開かれていて、

お兄ちゃんが号泣しながら親方と酒を交わし、それを他の馬借さんが囃したてていた。

誰ですか、お兄ちゃんに酒飲ませたの。お兄ちゃん泣き上戸なのに…。


「あぁ…親父にばれてたのか…!」


茫然とする私の隣で若旦那は頭を抱えていた。


「おう!団蔵帰ったか!まさかふられたんじゃねぇだろうなー」


出来上がった親方が杯片手にそう問えば、若旦那は私の肩を抱き寄せ、満面の笑みでピースサインを作った。

その姿に一気に歓声が沸く。


若旦那を見上げれば、頬を染めて私ににこりと微笑んくれた。

その笑顔が優しくて、私もそれに微笑み返した。



END


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初団蔵(成長)夢ー!オチが無い!
団蔵が成長したら絶対かっこいいよね!
団蔵は照れ屋だと良い!男前だけど、若干へたれだと良い!!
そんな妄想から生まれた夢…
本当は一言ネタとかギャグネタとして上げるつもりだったけど、せっかくだから夢にしてみた。

プロポーズしようといろいろ考えてきた若旦那。途中までしか言えなかったりとか、言い間違えたりとかでぐだぐだになって、結局直球でいったんです(笑)

『一生俺の洗濯物を洗ってくれ!』→「俺のパンツを洗ってくれ」的な?なんか男尊女卑な感じがして個人的に嫌いですが、時代的なものと主従関係的なのを考えればありかなと思って…というか、若旦那の褌なら喜んで!←

『一生俺に玉子焼きを作ってくれ!』→「一生俺の味噌汁を作ってくれ」的な?「一生」っていう言葉を言い忘れた若旦那と鈍感桜さんでは意思疎通できなかったようです。

『「若旦那」じゃなくて「旦那」にしてくれ!』→これを思いついた故に出来上がった作品。若旦那渾身の一撃は見事に避けられてしまったわけです。そして直球でいった、っていうね(^q^)

若旦那なら男前に直球でいきそう!って思ったんだけど、プロポーズの準備をあれこれ悩む若旦那やなかなかうまく言えない若旦那が書きたかったから仕方ない。

ここまでお読みいただきありがとうございました!


2011/05/21

 

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