RKRN ５年
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「土井先生ってかっこいいよねー」
独り言のように呟いた言葉は、私に背を向ける幼馴染みに投げ掛けたもので、
また始まった
顔は見えないけど、彼がそんな顔をして呆れた気がした。
僅かに息を吐いた音がして、彼がこちらを向いた気がしたけど、窓際で頬杖をついている私にはそれは見えなかった。
今日は見事な晴天で、窓からは気持ち良い風がそよそよと吹き込んでくる。
あー、気持ち良い。
悩んでるわけでもないし、悩んでるふりなんかする気もないので、爽やかな風に包まれながら空を見上げ続けた。
きっと幼馴染みのハチには、私がただ呟いてるってことはお見通しなんだろう。
だから、ハチは視線を読んでた本に戻してしまったようだ。
見てなくてもわかる辺り、私もハチのことをよくわかってるみたい。
でもね、
ちょっとは気にしてほしいんだよ？
「利吉さんもかっこいいなー。仕事もできるし、頼りがいあるし。」
「そうだな」
相槌を打つ彼をちらりと横目で見たが、その後姿は微動だにしない。
土井先生も利吉さんも大人だし、かっこいい。
でも、きっとハチは私なんか大人には相手にされないと思って呆れてるんだろう。
「…食満先輩もかっこいいよね。男らしいし、優しいし。この間、くの一教室の廊下が脆くなってたんだけど、お願いしたら快く修理してくれて。…爽やかだったなー。」
六年の食満先輩。
いつもは出さない人の名前を挙げてみる。
けれど、ハチが動いた様子は感じなかった。
やっぱりね。
そう、わかりきっていたことだ。
なのに落胆する私は、期待していたんだろう。
別に男好きでもないし、名前を挙げた人達に惚れてるっていうわけでもない。
ただ、妬いてほしいだけ。
でも、ハチは他の男の名前を次々挙げても気になんか留めない。
「…私って男らしい人が好きなのかな〜」
「そうだろうな」
男らしい人がハチを指してることを、本人は知っているのだろうか。
ねぇ、ハチ。
あなたは気づいてる？
私があなたを好きなこと。
あなたは私を幼馴染みとして好きだろうけど、
私は幼馴染みとしてより、一人の男としてハチが好きなんだよ。
でも、この気持ちを告げることはできない。
なぜなら、
あなたが幼馴染みとしての関係を大切にしているのがわかるから。
「いいな〜食満先輩みたいな男らしくて、優しい人と付き合いたいなー」
半分本音、半分嘘。
そんな願望を空に向かって投げ掛けた。
食満先輩には彼女がいる。
それをハチも知っているはず。
私は食満先輩が好きなわけではない。
食満先輩より優しくて、男らしく成長したハチが好きなの。
だけど、それは叶わない恋だったのだろうか。
ねぇ、ハチ。
あなたは気づいているんでしょ？
月に叢雲 花に風
「俺にしとけよ」
そう言ってほしいだなんて、言えるはずもない。
私は真っ青な空を見上げた。
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本音が言えない幼馴染み二人。本当は両思いなのに、すれ違うばかり。
「月に叢雲(むらくも)花に風」
＝世の中の好事には障害が多いこと
2011/01/12