RKRN 5年

□◆
1ページ/1ページ



モヤモヤする。

病気…じゃないはずだけど。


ここ最近ずっとそう。


原因は…

不破くん…だと思う。



不破君と初めて会ったのは一年の頃。


登校初日の通学路。

高校は目前というところで、近くを走りながら登校していた小学生が躓いてこけてしまった。

すると、私の少し前を歩いていた男子が慌ててその子の下へ駆け寄った。

しゃがみこみ、泣く小学生を起き上がらせ、涙を拭ってやる彼。

膝から血が薄ら出ていて、それに気付いて彼がどうしようかと悩んでいる姿を見て、私も慌てて駆け寄る。


「あの、この絆創膏使ってください。」

「え?あ、ありがとうございます…!」


ちょうど鞄に入れておいた絆創膏を取りだし、彼に差し出した。

彼は小学生の傷口を軽く拭いた後、そこに私の絆創膏を貼ってやる。


「学校行ったら保健室に行って先生に消毒してもらってね。」


優しく小学生に言う彼の笑顔はとても素敵で、私まで暖かい気持ちになった。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう!」


駆けていく小学生を、手を振って見送る私たち。

手を下した頃には周りには誰もおらず、静かな空気に包まれる。

ちらりと横にいる彼を見ると、同じ高校の制服を着ていることに気づく。


「あ!」

「え?」


突然思い出したかのように彼が大きな声を上げ、私はびくっと震える。


「あ、あの、絆創膏ありがとうございました!!」

「え?あぁ!気にしないでください。」


少し顔を赤らめて私にお礼を言う彼。

私はその様子がなんだか可愛く見えて、思わず微笑んだ。

すると、それに返すかのようににこっと彼も笑った。


どきん、と


彼の優しい笑顔に胸が高鳴った。


その瞬間、


「千雪〜!おはよう〜!」


門の前で友達が手を振って私の名前を呼んだ。


「あ…じゃあ、私行きますね。」

「あ、はい…」


私は軽く会釈すると、友達の下へと駆けていった。


よく見たら制服新しかったし、あの人、同じ一年生かも。

あんな優しい人と同じクラスになれたらいいなぁ。


そんなことを考えながら、私は笑顔で友達と門をくぐった。



それが彼、

不破くんと私の出逢いだ。


その後向かった教室で彼とそっくりの鉢屋くんと対面し、心底驚いたことは今でも鮮明に覚えている。


まさか二人がいとこ同士で、あんなにそっくりだとは…!


鉢屋くんとはその件(私が不破君と勘違いして話しかけたこと)もあって仲良くなったんだけど、当の不破くんとはクラスも違うし、なかなか話す機会はなかった。


時々、鉢屋くんが「雷蔵が…」とか「今日は雷蔵と…」とか口にすると、その名前に反応する自分がいたし、

たまに私たちのクラスに不破くんが鉢屋くんに用があって来ると、遠くからそれを見つめている自分がいた。


それでも私たちの視線が絡むことはなかった。


不破君があの時のことを覚えているかは定かではない。

でも、私はしっかりと覚えている。



そして、現在。

今月から、私と不破君は同じクラスになったんだけど…


どういうわけか、避けられている気がする。


時々、目が合うようになった。

でも、目が合った瞬間逸らされてしまう。

私、何かしたかな?


せっかく同じクラスになれたけど、席は窓際と廊下側で離れてるし、

特別共通するものもなくて、なかなか話しかけづらい。


仲良くなりたいな…


そう思えば思うほど、心はモヤモヤして苦しい。

私はため息をついて、窓の外に広がる青空を見上げた。



その時、


「西園寺、おはよう!」


と元気な声がした。


前を向けば、斜め前の席の竹谷くんが鞄を置きながら爽やかな笑顔をで挨拶してくれた。


「あ、竹谷くん。おはよう!」


私もそれにつられて笑顔で返す。


「西園寺、今日の委員会の資料できてるか?」


今度は後ろから声をかけられ、振り向くと鉢屋くんがこちらに向かっていた。


「あ、鉢屋くん、おはよう。はい、これ資料。」


私は机の上に置いていた委員会の書類を彼に渡す。


その時、不破くんが鞄を置こうとしているのが見えた。


あ、不破くん…今来たのかな?


竹谷くんとは席が近いから気兼ねなく話できるし、

鉢屋くんとは昨年から同じクラスだし、委員会も同じだから話題に事欠かないんだけど…

不破くんは席も離れているし、委員会も違うし…


何か話しかけるきっかけがあれば、ねぇ…


うーん…と考えながら目を瞑った瞬間、


「あ!」


閃いた。

というか、気づいた。


何でこんなに簡単なことに今まで気づかなかったんだろう?


私は椅子から立ち上がり、教室の廊下側へと足を進めた。


「不破くん!」


初めて呼んだ彼の名前は、思ったよりも教室に響いた。


「…え?!」


顔を上げた不破君は、ものすごく驚いた表情をしていた。

駆け寄った私は、彼と机一つ分距離を開けたところで立ち止った。


共通の話題とかきっかけとか、必要ないじゃん。


私は笑顔で口を開く。

紡いだのは、魔法の言葉。



「おはよう!」



たったその一言で、私のモヤモヤは吹っ飛んだ。




おはようの挨拶で満たされた



「お、おはよう!」と、不破くんは赤くなりながらも元気に返してくれて、

それがあまりに嬉しくて笑顔を溢した。


その日を境に、モヤモヤではなくドキドキが心を占めることになるとは、この時の私はまだ知らない…。





*******

雷蔵夢『おはようの挨拶で満たされた』の主人公視点Verです。

奥手な雷蔵と恋に気づかない千雪さんは仲良くなるのに1年かかっちゃったんですね。

本当は初めて出会ったときにお互い惹かれていたんですけどね…それを表現できない、私の馬鹿!!(泣)

ちなみに、小学生は泣き虫金吾をイメージ(笑)


今回雷蔵Verを企画『IF』に提出させていただきました。

ですが、雷蔵Verだけじゃ満足しなかったので主人公Verも同タイトルで書かせていただきました。

企画とても楽しかったです!ありがとうございました!(*´∇`*)


2010/11/19
水無瀬透


←ブラウザバックでお戻りください。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ