RKRN 6年

□善法寺伊作
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保健委員会は不運だと言われ、その中でも保健委員会に六年連続選抜され現在委員長を務めている僕は最強の不運だと言われている。


いや、最凶、かな?


もちろん、最初はそんなこと知らずに保健委員会に入ったし、保健委員であり続けたのは自分で望んでだから、保健委員会に入ったことを後悔したことはない。

それどころか、今僕は保健委員であったことに感謝しているくらいだ。


保健委員として医務室で薬草の整理をしていれば、「失礼します」とかわいい声が聞こえて、

聞き覚えのある声に振り向けば、そこにはくの一教室六年の伊集院さんがいて、

あまりの不意な出来事に掴んでいた箱を落としてしまえば、

「善法寺くん!?大丈夫?」

と彼女が駆け寄ってきて散らかした薬草を拾ってくれた。


僕も慌てて薬草を拾ってたら、僕の手と彼女の白い手がわずかに触れた。


「あ、ご、ごめんね!」


慌ててそう言えば、彼女はにこりと笑って


「気にしないで。はい、これで全部かな?」

と薬草を箱に戻してくれる。


ああ、なんて優しいんだろう。


僕が密かに想いを寄せる彼女、伊集院椿さんは昔から優しかった。

もちろん、その優しさが向けられているのは僕だけではないんだけど…

それでも、僕は自分の不運を吹き飛ばしてくれるようなかわいらしい彼女が大好きだった。


「あ、そうだ。善法寺くん、ちょっと相談があるんだけど…」

「え!?」


声が裏返りそうになった。

僕に相談だなんて、何だろう?


「うん、実は…小平太くんがね…」


小平太?まさか伊集院さんに何か迷惑かけたのか!?


「私の姿が見えたから走ってきたって言ってすごく遠くから走ってきたんだよね。私は遠すぎて見えなかったのに…」

「へ、へぇ…」


小平太も伊集院さんのことかわいいって言っていたのを思い出して少し焦る。

「その後、留三郎くんと文次郎くんがケンカしてる横を通りすぎたんだけど、ケンカの原因はどっちが目つきが悪いかってことだったみたいで、私に『どっちが目つきが悪い!?』って聞かれたから『二人とも目つき悪くないし、かっこいいよ?』って言ったら顔真っ赤にして黙っちゃったんだけど、『伊集院は目が悪すぎる!』とか『文次郎がかっこいいとか、お前視力下がってるんじゃねぇか?』とか言われちゃって…」


そう言い終えると、しょんぼりと肩を落とす伊集院さん。


ていうか、あの二人なんてことを伊集院さんに言うんだ!

せっかく伊集院さんが褒めてくれてるのに!僕だって伊集院さんに「かっこいい」とか言われたいのに!


「私…目が悪いのかな…」

伊集院さんがこんなに落ち込んでる!!伊集院さんは何も悪くないのに!


「だ、大丈夫だよ!小平太は常人よりかなり視力がいいし、留三郎と文次郎はただの照れ隠しだから…!」


ほら!伊集院さんはちょっと天然なんだから、勘違いしてるじゃん!!


「でも…最近黒板の字が見にくい気がするし、遠くの景色がぼやける気がするし…」

「うーん…あ!じゃあ視力を計ってみようか?」

「うん!」


というわけで、僕たちは二人っきりで視力検査をすることにした。

いつもならここで誰かが医務室に来るんだろうけど、今日は幸運にも誰も来ない。


ああ、今日は本当についてる!


「じゃあ、まず右目から。これは?」

指し棒で視力板の記号の一つ、比較的大きいものを指す。

「右」

「じゃあ、これは?」


一回り小さい記号を指すと


「んー、下」

「うん、じゃあこれは?」

結構小さい記号を指せば、彼女は少し目を凝らしながら

「うーん…右?」

と、自信無さげに答えた。

「うん、これだけ見えてるなら問題ないよ。じゃあ、次は左を計ろうか。」

「うん!」


その後、右目同様検査を進めていくと、前回の検査より少し度が下がってるようだったけど、日常生活に支障が出るほどではなかった。

その時、彼女が「やっぱり左の方が悪いみたいだね。善法寺くんの顔が少しぼやけるんだよね」と苦笑い混じりに言った。


『善法寺くん』


そういえば、伊集院さんは小平太を『小平太くん』と呼び、留三郎を『留三郎くん』と呼び、文次郎を『文次郎くん』と呼ぶ。


なのに、僕は『善法寺くん』だ。


僕だって『伊集院さん』と苗字で呼ぶけど、

できれば『椿ちゃん』って呼びたいし、

『伊作くん』と名前で呼んでほしい。


そんなことを考えていたからか、少し悪知恵が浮かんで、

僕は、すっと指し棒である文字を差した。


「伊集院さん、これは?」

「え?えっと…『い』」


僕は黙って次々指していく。

「『さ』…『く』…」


そこまで読み上げて、何かに気づいたであろう彼女がこちらに驚いた顔を向けた。

見つめられた僕は満足そうな顔をしていたに違いない。



君の声で僕の名前を呼んでほしくて少しずるをしてしまった




「今度から『伊作くん』って呼んでいい?」


驚き顔を崩し、ふわりと笑顔でそう言った彼女。


どうやら、今度は僕が顔を真っ赤に染める番のようだ。




**************


お題『君に恋した』で伊作夢!

2010年最後の更新…!
間に合った(^^ゞ
たまには幸せな伊作を…ということで(笑)

皆様よいお年を…!


2010/12/31


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