RKRN 6年

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俺には悩みがある。


まだ12歳だが、こう見えて俺は苦労が多い。


まず、同じ学年の三之助と左門。

あいつらの「迷子」という特技のせいで、俺や他の三年生はいつも苦労させられる。


それだけじゃねぇ。

委員会の後輩である喜三太にしんべえ。

こいつらには何かと不安な点があって、特に喜三太はすぐになめくじなめくじなめくじなめくじ…あー!もうなめくじばっかで、ふらふらとどっか行っちまうから、俺はそれを阻止しなくちゃなんねぇ!


そして、そんな悩みのつきねぇ俺に今一番重くのしかかっているのは


用具委員会委員長、食満留三郎先輩。


戦うのが大好きと公言するこの六年生は、俺にとって恐ろしい存在だ。


普段はまじめで頼りになる先輩だが…この人に委員会が絡むと人格が変わっちまう

…と俺は思っている。


以前、用具委員会が管理している縄梯子が一つ足りない時があったが、その時俺は食満先輩に殺されるんじゃないだろうかと気が気じゃなかった。

結局、その縄梯子は食満先輩自身が屋根の修復に使ってたんだが。(よってお咎めなんか無かった)


しかし、今回は違う。

俺は本当にやらかしちまったかもしれねぇ…!!!


「どうしよう…!」


俺の目の前には用具委員会が管理する備品の壺。


問題なのはその壺が、割れて砕けちまってるってことだ。


どうするんだ、これ!?

真っ二つどころじゃなく、粉々だ…


修復不可能。


その瞬間、俺の脳内には恐ろしい顔をして怒り狂う食満先輩の顔が浮かんだ。



「と〜ま〜つ〜さ〜く〜べぇ〜!!!」



眼は大きく見開かれ、口は耳まで裂け、顔面崩壊した食満先輩が武器を両手に持ち、俺に襲いかかってくる。



「ひぇ――!!!助けてくれぇ―!!!」



俺は頭を抱え、ブンブン左右に振りながら蹲った。


食満先輩の怒った姿っていうのは、実際見たわけでなく俺の想像なわけだが、

いや、きっと先輩はああやって怒るだろう…!!


やばい、殺されてしまう…!


割れた壺の破片が広がった地面を見つめていると、誰かが前方に近づき、視界に影が差した。


「…作兵衛?」


びくり!


名前を呼ばれ、体が大きく跳ねた。


あぁ、俺の命もここまでか…!


「すみません、食満先輩!!!」


俺は迷わず土下座した。


「俺何でもするんで、どうか命だけは…!!!」

「え?ちょ、ちょっと、作兵衛?」


…ん?


食満先輩の声にしては高く柔らかい声。


俺は恐る恐る顔を上げた。


「あ…伊集院椿先輩!」

「留三郎じゃなくてがっかりした?」


俺と視線を合わせるようしゃがんで、優しく微笑んでいたのは、

食満留三郎先輩ではなく、

くの一教室六年の伊集院椿先輩だった。


この先輩はとても優しくて、俺が一年の頃から可愛がってくれている。

いつも笑顔で優秀で、何よりくの一の中でも秀でた美人で、忍たまの中でも特に人気の女性だ。


あの潮江文次郎先輩ですら、椿先輩が「潮江くん」と名を呼んだだけで赤面するほどだ。


後輩にとても優しく、いつも用具委員の手伝いをしてくれる。

当然、用具委員の後輩たちも椿先輩のことが大好きだ。


そして、俺も例外ではなく…


「どうしたの?」

「え!あ、いや、その…!」


椿先輩の顔に見とれてボーっとしてた俺は、慌てて顔を逸らす。


「じ、実は…これ、手滑らして割っちまって…」

「あ…ホントだ…これって用具委員の?」

「はい…どうしよう、俺、食満先輩に…」


その瞬間、俺の脳裏には再び恐ろしい顔をした食満先輩の姿が浮かんだ。


「ど、どうしよ…せ、先輩、俺、殺される…!!」


思わず、手が震え、目の前の優しい先輩にすがりたくなって、

こんなの男らしくねぇって重々承知していたものの、心の中はパニック寸前で、

俺は先輩に泣きついた。


「え?殺される?誰に?」


椿先輩は苦笑いしながら、俺をなだめるように背中を撫でた。


「け、け、食満ッ、食満先輩に…!!」


思わず泣きそうになって、声が震えた。


「え?留三郎に?」


椿先輩はきょとんとした顔をした。


その後、「あ」と何かに気づいた声がした。


「作兵衛、立って。」

「え?」


俺が顔を上げると、椿先輩は俺の手を取って立ち上がらせた。


「せ、先輩?」

「血が出てる。」


言われて見れば、左手の指数本から赤い血が流れている。

気付かなかった。


「あ、本当だ…」

「おいで、とりあえず手当するから。」



椿先輩は俺の手を引いて近くの井戸まで連れて行った。

傷口を水で流した後、軽く消毒液を付け、布と包帯で指を覆う。


その手際は見事で、白く細い指が華麗に動く様を、俺はぼーっと見つめていた。


「はい、できた。」

「ありがとうございます。先輩って、手当するの上手ですね…」


そう言うと、椿先輩はくすりと笑って治療道具を片し始めた。


「そんなことないよ。用具委員は修理とかでよく怪我しちゃうでしょ?だからこういのに馴れちゃっただけ。」


そういえば、椿先輩はくの一の用具整備担当だ。

委員会自体には属さなくても、くの一の用具使用や管理などは先輩が担当していると聞いた。

だから、椿先輩はいつも俺たち用具委員を手伝ってくれ、その上面倒まで見てくれる。


さすが、椿先輩…

優しくて、綺麗で、しっかりしてて…

俺の理想だなぁ…

年下の男とか、ガキとしてしか見られてないんだろうか…?


心の中がチクリと痛むと同時に、触れられた手から体すべてに熱が灯る。


「…ねぇ、作兵衛?」

「は、はい?!」

「さっき言ってたことだけど…留三郎が何で作兵衛を殺すの?」


その質問で自分のやったことを思い出した俺は、再び不安に駆られ青ざめた。


「じ、実は…」


俺は恐る恐る、想像の食満先輩の怒ったときの様子を椿先輩に話した。




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