RKRN 6年

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太陽がさんさんと照りつける夏。

昼間程はないが、それでもやはり夏らしく暑い午前。

私は家の縁側に腰掛け、深めの小皿に作った液体に小筒の先端を付けた。

そして小筒を口に咥え、ふうっと、静かにゆっくり息を吹き込んだ。

ふわっと透明の大きなシャボン玉が現れ、筒の先端から離れた。

私は青い空に浮かぶそれを見つめる。


きらきら光って、きれい。

でも、

ふっと、シャボン玉は弾けて消えた。

一瞬のことで、私はいまだ顔を空に向けている。


「…椿」


僅かに聞き取れるぐらいの声で、自分の名前が呼ばれた。

左を向けば、恋人である長次が、じょうろ片手にこちらに向かってきた。


「長次!朝顔の水やり?」


問えばこくんと頷く長次。

彼は私の正面、塀際に連なって置かれた朝顔の鉢植えに迎い、水をあげ始めた。

私はそれを見ながら、新たなシャボン玉を作り始めた。

ゆっくり息を吹き込んで大きいシャボン玉、

小さくふーっと息を吹き込んで小さなシャボン玉。

気がつけば、たくさんのシャボン玉が風に揺れていた。

長次が一通り水をやり終えた時には、あたりはシャボン玉に包まれていて、

まるでお伽噺のような神秘的な空間となっていた。

気がつけば、長次が私をじっと見ていた。


「わぁ!長次とシャボン玉って合うね!フェアリーだね!」


ふふっと笑いながら言うと、長次の口が動いた。


「…どうかしたのか?」

「…ううん、別に大したことじゃないんだ。」


私は視線を空に向けた。

無数のシャボン玉が輝いている。


「シャボン玉ってさ…儚いよね…」


長次は黙っていた。


「なんか、人みたいだよね…」


長次は気づいている。


昨日、私たちは街まで買い物に行ったんだけど、

その帰り道、葬式の行列と遭った。

母親が亡くなったのだろうか、

子供が「母ちゃん」って何度も呼びながら泣いてた。

それを見て、私の体は僅かに震えた。

長次が「大丈夫か?」と聞いてくれたが、

「ん?うん、大丈夫」と、

私は誤魔化したんだ。


そして、今。

私は人の死について考えていた。


人は儚いものだ。

そして人が願う夢や希望、

愛すら、儚いものだ。


そう思うのは私が幼いころ悲惨な状況にあったからかもしれない。

自分の父親が他の女のところに逃げ、蒸発した。

残された母が病気になり、涙に濡れて死んだ。

幼なかった私は孤児になった。

親身にしてくれる身よりもなく、流れついて学園長のところに辿り着いた。

そして今では忍者のたまご。

その忍者という職業は常に危険が伴うし、何より戦乱の世でなければ機能しない。

人の一生は、戦が無くても儚いものなのに。

戦はいろんなものを奪っていく。

家や財産、愛しい人やかけがいのない家族。

そして、楽しかった時間や、尊い命。

まるでシャボン玉が消えるように、一瞬で儚い。

今という時間すら、楽しかった過去すら漆黒に変えてしまう。

自分はそんな儚い命を持った儚い人間で、

自分の行く末は人の命をかけた戦場で人の命を奪うために働く忍者。

なんという矛盾。

なんという無力。

なんというむなしさ。

青かった空が真っ暗に染まった気がした。



「…椿」


名前を呼ばれ、はっとして声がした方を見ると、いつの間にか私の近くに歩みよっていた。


「長次…私、怖いよ…」


忍になることが?

死ぬことが?

…違う。


「私、この学園に来れたお陰でみんなに会えた。」


学園長や先生方、


「ここに来て、すごい平和で幸せだったから…安心しきってた。」


六年生のみんなや、くの一の同級生


「だから怖い…」


可愛い後輩たち


「みんながいつか消えちゃう気がして、怖い…」


そして、

こんな私を愛してくれた長次。


大切な人たち、温かい時間。

それがシャボン玉のように儚く消えることが恐ろしいんだ。


「…椿。」

「ん…?」


長次は私の隣に腰掛ける。

そして、こう続けた。


「人は…儚い。」

「うん…」

「でも、弱くはない。」


長次を見上げると、長次がそっと私の頭に手を伸ばした。


「シャボン玉は消えても何も残らないが、俺たちは違う。」


頭に触れた手が、髪を撫でるようにゆっくり動いた。


「誰かに幸せを残してやれる。」


長次は真剣な眼差しで、私の目を見て語る。


「俺は椿が好きだ。みんなも椿が好きだ。だから、椿に幸せを残してやりたい。椿の幸せは俺たちみんなで守る。」


優しく、とても優しく、

長次がふわりとほほ笑んだ。

優しく私の頭を撫でる大きな手が不安を吸い取っていく。


「…うん…」


涙で歪んだ視界を空に向ける。

不思議だ。

長次の言葉なら信じられる。


「おーい!椿―!長次―!」

「あ、みんな!」

「みんなでバレーやらないか?」

「いいね、やろうやろう!」


私は長次の手を取ってみんなの方へ走りだす。

そんな私たちの後ろで、

シャボン玉はふわふわ空に漂って、

きらきら輝いて、

高く、高く

青い空へと吸い込まれていった。



しゃぼんだま



******

暗い気分の時に書いたらやはりシリアス気味になった…orz

フェアリーな長次が書きたかっただけ、ただそれだけ(どうした)


*補足*
くの一と忍者って、本来はその仕事内容が違うようですが、世間一般的には女性の忍者のことをくの一と呼んでる感じですよね。
RKRNのくの一たちがどのような立場か謎だったので、この作品では椿さんはくの一ですが「忍者のたまご」ってことにしてます。

2010/08/25

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