RKRN 6年

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見てはいけないモノを見てしまった

…気がする。



私は今、保健室の前にいる。

正確に言えば、保健室の戸の隙間から中を覗いている状態だ。

決して覗き見が趣味とか、そんなのではない。

留三郎とあひるさんボートの修理をしていたら、誤って指を打ってしまって。

それで、留が保健室行けって言うから来てみたんだけど、

中に入ろうと扉を僅かに開けた時、

中から声が聞こえたんだ。

その声には聞き覚えがあって、

ついでに言えばそれは私の大好きな人の声で、

だから、その声に驚いて思わず体が固まった。


「…好きだ。」


呼吸さえも止めて、僅かに開いた扉の隙間から恐る恐る中を覗くと、

こちらを向いて座っている伊作と、

それに向き合うように座った女性。

というか、くのたま。

ピンクのズキンと忍装束。

この学園のくノ一のたまごが着る制服で、実際私も着ている。

扉を背に座るくの一の顔は見えないけど、痩せているようで姿勢もかなり良い。

それに向き合う伊作は彼女に向き合って座り、彼女の手を取って真剣な顔で話をしている。


「ずっと前から好きだったんだ。」


真剣に、頬を染めながら言う伊作。

その顔を見て、彼の真剣な告白を聞いて、

私の胸がうるさいくらい騒いだ。


「……」


女の子は黙っている。

あの子は誰だろうとか、何年生だろうとか、いろいろ気になったけど、

それ以上に、彼女がなんて返事するか、それが一番気になった。


「卒業したら…嫁に来てくれないか。」


彼女の両手を取り、いつになく男らしいことを口にする伊作が僅かに見えた。

次の瞬間、


こくん…。


静かに、でもはっきりと、

彼女が首を縦に沈めた。

私は目を見開いた。


胸が苦しくなって、

乾いたむかつきがして、吐き気がして、

視界がぐらぐら歪んで、

ぽたりと、

涙が廊下に落ちた。


「っ……!」


早く、立ち去ろう…

そう思って扉に背を向けた



その時、



「誰かいるのか?!」


中から伊作の声がして、

扉が勢いよく開けられた。


「え?!椿?!」

「ごっ、ごめん…その、聞くつもりじゃなかったんだけど…!」


慌てて涙を拭ったけど、目は赤くて、

急いで逃げようとするが、伊作に腕を掴まれて阻止された。


「あ、あの、椿、その、どこから聞いて…?」

「ごめん、私このこと誰にも言わないからっ…!彼女とお幸せに…!!」


視線を伊作の方に移せば、必然的に彼女の姿が目に入ってしまう。

それが嫌で、私は必至に逃げようと伊作と反対方向を向いたまま抵抗する。


「彼女?ちょ、ちょっと椿落ち着いて…!」

「っ…!?」


ぐいっと腕を引っ張られて、伊作の胸に閉じ込められた。

何が起こってるのかわからなくて、涙が止まらなくて、

そして、恥ずかしくて

私の頭はショート寸前。

顔も目も真っ赤だ。


「ちょ、い、伊作!!彼女の前で…!!」

「いいから、椿、落ち着いて。多分、椿は何か勘違いしてるんだ。」


伊作の声が耳元でして、吐息が耳にかかった。


「か、勘違いって…だって、伊作、告白してたじゃない…」

「うん…告白の練習してた…」

「…練習?!」


練習であんな真剣に言ってたの?!


「そんな…!女の子相手にあんな告白の練習してたの?!」


あんなに真剣に、本気モードで?!

練習相手にされてる子が可哀そうだ!!

私が練習相手なら、あんな告白されたら確実に落ちてる。

悲しみが若干怒りに変わりかけた。


「女の子相手って…あの子のことかな?」


困ったような顔で笑う伊作は、私の手を引いて保健室の中に入った。

そして私を相変わらず座っていた女の子の前に立たせた。


「なっ…?!!!」


そこにいたのは女の子ではなく、


「骨格標本のコーちゃん…」

「…です」


申し訳なさそうに伊作が笑った。

普段は男の忍装束を着ているコーちゃんがくのたまの制服を着せられて、正座させられている。


「…じゃあ。さっきのって本当に練習だったんだ?」

「うん…恥ずかしいところ見られちゃったなぁ…」


赤くなりながら笑う伊作に、また胸が締め付けられた。

そうだ、伊作に好きな人がいるという事実は変わらないんだ。


「…さて、じゃあ、今から本番だ。」

「…いってらっしゃい。」


私がそう言うと、伊作は驚いた顔をした。

そして柔らかく微笑んだ。

視線を足元に落とすと、伊作の両手が私の両手を優しく掴んだ。


「? …伊作?」

「言っただろ?今から本番って。」

「は?」


ちょっと待って、意味が…


「僕はずっと椿のことが好きだった。」

「え?え?」

「卒業したら、僕のところに嫁に来てくれないか?」

「え?わ、私?!」


顔がぼんっと赤くなって、湯気が出そうなくらい熱くなった。

目の前の伊作の顔はさっきより真剣で、


「椿以外にこんなに愛せる人なんていないよ?」


私の大好きな笑顔を浮かべていた。



骨まで愛して



「…はい…」


放心したまま、そう返事をすれば、伊作は喜んで「やったー!」と私の手ごと万歳した。


「痛っ!」

「ん?あ、ごめん!!」

「あ、違うの!指怪我しちゃって…それで保健室に来たんだけど…」

「手当するから座って?」


伊作に促され座ると、伊作は私の指を消毒し、湿布と包帯を巻き始めた。

沈黙が、近すぎる距離が、恥ずかしい…。

伊作が私のこと好きで、

しかも、よ、嫁に来てって…

〜〜〜っ!!! 嬉しいけど、恥ずかしい…!!

視線を伊作からずらすと、くのたま姿のコーちゃんが視線に入り、一気に冷静になった。


「ていうか…よくこんなのにあんな真剣に告白の練習できたね…」


私ならいくら練習でも、骸骨相手に真剣に告白(の練習)はムリだ。

少し呆れて言うと、照れたように笑う伊作。

いや、褒めてないよ??


「練習しようと思って、椿のこと一生懸命考えたら、コーちゃんが椿にしか見えなくなって…つい真剣に練習してしまったんだ…」


その言葉に再び真っ赤になったのは言うまでもない。



*******

伊作初夢。

オチが落ち切れてないという不運。

伊作はこーちゃん相手に真剣に練習できそう。

むしろ椿さんの骨まで含めて愛してそう。

そういう意味で作ったつもりだった…(どうした)


2010/08/21


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