RKRN 6年

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「これは…!!」

ある時、私はとうとう発見してしまった。


『秘伝の書』


これが波乱の一日の幕開けになるとも知らず…



ほれぐすり




「惚れ薬?」


ごりごりと薬草をすり潰していた伊作の手が止まる。


「そう!ていうか、臭っ!!何作ってるの?!」

「これ?ドクダミだよ。他の薬草と混ぜて新しい薬を調合しようと思って。」

「ドクダミ…」

「それより惚れ薬って、あの『飲ませた相手を惚れさせる』っていう惚れ薬?」

「それ以外に何があるのよ?まさにその惚れ薬よ!!図書室で見付けたの
!!」


「ついに見つけたのー!!」と嬉しさのあまり作り方が巻物を抱きしめる。

あ、やばい、大切にしなきゃ長次に殺されちゃう…


「図書室に…?というか、惚れ薬なんて本当に存在するんだ?」


きょとんとした顔で私を見る伊作。


「何が言いたいんですか、保健委員長さま?」

「いや、惚れ薬というのは大抵が『媚薬』のことを指すんだよ。」

「媚薬って…あの性的に興奮させるやつ?」

「そう。だから、相手に恋慕の情を起こさせるという意味の惚れ薬は作り出すのは不可能だと思っていたんだ。」

「そっか…でも!私は見つけたの!」


さすが秘伝の書だけあって、書かれてある内容は超お宝級のようだ。

図書委員やっててよかった!


「それって図書室のどこにあったの?」


またもやごりごり音を立て始めた伊作は、こちらを見ず尋ねてきた。


「え?古い本とかを処分するから図書室の蔵書点検をしてたら、棚の奥に挟まってたの見つけたの。」

「そうか…長次は何て?」

「伊作に見せたらどうだ?って言ってた。というわけで、はい。」


巻物を伊作に突き出すと、伊作は動きを止めて巻物を受け取った。

しゅるっと巻物が開かれる音がする。


「えーっと、『この薬を服用した者はたちまち…』…ん?巻物の途中が破れてるな。」

「でも最後の方は書いてあるでしょ?」

「あぁ、『…ほれるであろう。』って書いてあるな。」

「ね!その先に調合方法が書いてあるし、そっちは破れてないし!」

「ふむふむ…へぇー、こんな材料で作れるんだ。意外だなぁ。」

「作れそう?」

「材料さえ揃えばすぐに…って、これ作らせるつもり?!」


伊作が驚いたようにこちらを振り向いた。


「当たり前じゃない。そのために伊作に見せたんだよ?」

「作るのはいいけど、こんなの誰に使うの?」

「それは…小平太よ!」

「小平太に?なんだ小平太か…」


はぁっとため息をつきながら、再び薬作りを行う伊作。


「なんだとは何よ?」

「いや、椿って本当に小平太好きなんだね…」


呆れたように言われてちょっとムッとする。


「す、好きで何が悪いのよ?」

「別に悪くはないけど。…椿って鈍いなって思って。」


鈍い?

私のどこが鈍いのかさっぱりだ。

だから鈍いとか言われてるんだろうか。

まじめな顔でごりごり作業する伊作の横顔を見ながら少し考える。


「伊作…」

「……。」


ゴリゴリ…カチャッ…ジョボボ…


「作ってよ、ね?伊作にしか頼めないの。」

「……。」


パタパタ…シュンシュン…


「い、伊作〜お願…」

「できた」

「え…ええええええええ?!早っ??ていうか、そんな簡単なの??」

「ちょうど調合していた材料と同じだったから、それに材料を少し追加するだけで済んだんだ。後は冷めればすぐ使えるだろう。」

「い、伊作の天才―!!最高!!」

「いや、これ簡単だったから…」

「後は飲ませるだけね!!」

「うん…でも、これって…」

「ん?何か言った?」

「…いや、何でもない…」



*****



完成した薬を竹筒に入れて、廊下を歩くと無意識にスキップしてしまった。

あぁ、早く小平太に飲ませたい…!

小平太とは一年からの付き合いで、無邪気で明るいところがずっと好きだった。

でもあの通りの鈍感男だから、私が一方的に好意を寄せてることなんか気がついてない様子。

いや、ただ単に、私が小平太の好みのタイプではないだけかも知れない。

それならもう、惚れさせてしまおう。

自分自身なんて身勝手なんだと一瞬思ったけど、

この時の私は、明るい未来への期待で舞い上がっていた。


「ん?あれは…」


庭に緑の制服を着た人を発見。


「おーい、椿じゃないか!一緒にバレーしなか?」

「こ、小平太!ナイスタイミング!!」

「? ん?椿、それ何だ?」

「え、あ、これ?これは…」


しまったっ…!!!!

何て言って飲ませれば…?!


「こっ、これは…お、お茶!飲む??」

「そうか、お茶か!ちょうど良かった。」


そう言って私の手から竹筒を奪った小平太は、疑いも無く、ぐびぐびっと飲みだした。


ええええええ!!!?

何これ!すごい展開!!


「ふぅ…ちょうど喉が乾いていたんだ。ありがとう、椿。」


空になった竹筒が返され、私は茫然としていた。


「えっと…苦くなかった?」

「ちょっと苦かったが、うまかったぞ?」

「そ、そっか…え、えっと…体の調子はどう?」

「体の調子?ん…?そう言えば…」


急に屈伸したり、肩を回し始めた小平太。


「…すごいぞ、椿!」

「な、何が…?」

「なんだか体が熱くなって…それで、心臓がドキドキして…」

「そ、それで…?」

「椿…」


こ、これは…


「私は…」


来た―――――!?


「塹壕が掘りたいっ!!!」

「…は?」

「うおぉおぉおぉ!!掘るぞぉ〜!!!」


そう言ってものすごい速さで塹壕を掘っていく小平太。

遠くになった彼の後姿を眺めながら、何が起こったのか全く理解できない私は、


「ちょ、ちょっと小平太!?待ってー!!」


必死に彼を追いかけた。




*****




日が傾き、西の空が赤くなった頃、

私たちはようやく学園に戻ってきた。

いや、私はうらうら山まで往復してきただけだけど、

小平太はうらうらうらうらうら山まで行って折り返して塹壕を掘って帰ってきたのだ。

追いかけたけどいつもより早くて追いつけなかった。

息が上がってうらうら山で立ち止まっていたら、折り返してきた小平太に会ったんで、それをまた追いかけて戻ってきたのだ。


「つ…疲れた…!!」


ぜいぜい息を上げる私に、まったく疲れてない様子の小平太。


「いやぁ、無性に塹壕が掘りたくなってなぁ!!」

「え…でもあれは…惚れ薬…」


ほれぐすり…?

ちょっと待って、

まさか…あれって、


『掘れ薬』??!


一気に力が抜け、私は座り込んだ。


「ほれぐすり?私に惚れ薬なんか飲ませてどうするつもりだったんだ?」

「!? いや、それは…その…」


あぁあぁあぁあぁ!!

しまったぁ…!!


座りこんだまま、顔を赤くして俯くと、


「惚れ薬なんか使うまでもなく、私は椿に惚れてるぞ?」


そう言って小平太が笑った。



ほれぐすり



『椿って鈍いなって思って。』

伊作、ごめん。

私、やっぱり、鈍かったみたい…




***************



初RKRN夢。そしてなぜか初夢が小平太。

塹壕掘ってる彼を見て思いついたから仕方ない。

ドクダミは江戸時代からの名称で古名はシブキなんですけど、わかりにくかったんでドクダミで使いました。

ちなみに、掘れ薬の中身は何首烏(ツルドクダミ)や山薬(ヤマイモ)など滋養強壮効果のあるもの中心で作ってます(すごい嘘設定)。

伊作が「鈍い」発言してますが、これは椿さんが小平太の気持ちだけでなく伊作の気持ちに気づいてないことの両方を含めたものだと思われ。

伊作…大好きだ(何)



2010/08/20


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