APH

□◆
1ページ/1ページ



なんだろう。


何なんだろう、この謎の物体は。


かわいらしいピンクと白のラッピング布に包まれてて、

赤いリボンを引いて開けてみた中には

真っ黒い物体。


何これ??


どう見たってプレゼントには見えないんだけど。

こんなかわいいラッピングまでされてるのに。


目の前の贈り主を見てみると、

なぜか彼はひどくご満悦のようだ。

頬を蒸気させ、私をじっと見つめている。


人生で初めての経験だ。

まぁ、「人生で」って言ってもまだ短いものだけどね。

それでも、普通に生活してたらお目にかかれない光景な気がする。

あぁ、感謝すべきなのかしら。

しかし、あんまり嬉しくないなぁ…


「あの…」

「何だ?」

「いゃ、あの、これ…」

「べ、別にお前のために焼いたわけじゃないからな!俺が作りたかったから作っただけで…!!」


いや、そんなこと聞いてないんだけど…

と思ったが、何か天啓でも下ったかのような衝撃とひらめきが脳を襲った。



あぁっ!!わかった!!!



い や が ら せ だ !



いや



い じ め だ !


しかも悪質の。



だってこんな綺麗なラッピングまでしてあって、中身がこんななんて悪意があるとしか考えられない。


そうか、私、カークランドさんに嫌われてたんだ。

カークランドさんってそんな人だったんだ。

しかも、こっちの反応楽しそうに見てるしね…


今までいじめられてる自覚なかったけど、よくよく思い出してみたら、思い当たる節がいくつかある。



まず、王さんから烏龍茶を一袋もらったら、次の日に家に大量の紅茶が送られてきた。

私、紅茶飲めないのに。


アルフレッドがくれたハンバーガー食べてたら、「痩せ薬」って書かれた瓶をもらった。

あれは、太ってるんだから痩せろってことだよね。



ロマーノと買い物行って新しい服見たててもらったら、古風なドレスがたくさん送られてきた。

きっと、流行の服なんか似合わないから昔の服でも着てろって意味だ。



あと、私の誕生日会ではすっごい酔って、腰にサロン巻いて、シャツ襟みたいなの首につけただけの格好で、歌って踊って暴れてた。

私の誕生日めちゃくちゃにしたかったんだろうな…



極め付けは昨日。

私のお兄ちゃんにカークランドさんから手紙が届いてたんだけど、

お兄ちゃん、それを開けて読むなり、すっごく怒って、ビリビリに破いて燃やしてた。

「あんの眉毛―!!許さへんわぁ!!!」

普段優しいのに、アントーニョ兄ちゃん。

きっとあれも私のせいだ。

それにしても、お兄ちゃんにまで嫌がらせするなんて、タチが悪すぎる。



そして、今。

今度は私に直接、謎の物体を「プレゼント」してくれている。


っていうか、この状況どうすればいいんだろう。


嫌がらせされてるのに、お礼言わなきゃいけないんだろうか。


っていうか、これどうすればいいんだろう。


なんか、さっきからカークランドさん黙ってるし…


…ていうか、なんか期待してるような気がするし…


嫌がらせしてる相手を喜ばせるのも癪だけど、とりあえずこの場から解放されるにはお礼言うしかないよね。


「あの…ありがとうございます。」

「よ、喜んでもらえたか?!」


え?!


喜べるわけないですけど!


どんな嫌がらせなんだろう…


はっ!まさか、私をドMだとでも思ってるのかしら?


嫌がらせされても何も言わないから、きっといじめられるのが好きだとでも思われたに違いない。


あぁ、何だかショックだ。

心臓がきゅっと痛くなって、頭がもやもやする。


「食べてみていいぞ!」

「…えっ?!」


今、何て言った???


「俺のことは気にするな。遠慮しないで食えよ!」


え?なんでこの人そんなに楽しそうに言ってるの?


ていうか、「食え」って言いました?


これ、食べ物なの??!


「あぅ、あっ、あのっ…これって、このまま…?」

「ちょっと冷めちまったけど、うまいぞ!」


未確認物体Xを持って固まる私に、笑顔で答える未確認星人K(カークランドだから)。


どうしよう、食べたくない…!!!



「あら?何してんのお二人さん?」


聞きなれた声がして振り向くと、フランシスがこちらに向かってきていた。


「あっ、フランシス!」
「げっ!フランシス!」


対照的な声を上げる私たち。


「マリアちゃん、ここにいたんだね。アントーニョが探してたよ?」

「え?お兄ちゃんが?なんでだろう?」

「うん、まぁ、理由は察しがつくけど…」


苦笑いをしながらフランシスは私の手の中の物とカークランドさんを交互に見た。


「アーサー…お前またスコーン作ったの…」

「なっ?!なんだよ!お前には関係ねーだろ!!」


カークランドさんは顔を真っ赤にしてポコポコ怒り始める。


っていうか、これ、スコーンなの?!


衝撃的事実に戸惑いを隠せない私は、未確認物体…いや、スコーンを見つめる。


っていうか、スコーンってこんな色だっけ?

なんか、これすごく焦げてて、まるで墨のような…


「悪いねマリアちゃん、こいつ好きな子にはスコーン作ってやるんだよ。」

「え?」

「ばっ!!馬鹿ぁー!!お前何言ってんだぁああ!!」


あまりの大音量に耳がキーンとなった。


ん?今フランシス、何て言った?


「かっ、勘違いするなよ!!ただ余ったからお前にもくれてやっただけだからな!!」


びしっと指差され、顔を真っ赤にしたカークランドさんはそう告げると走って去っていった。


「な、なんだったのかしら…??」


嫌がらせ…じゃなかったの??


「あいつも素直じゃないねぇ…」


やれやれといった感じでフランシスが私の頭を撫でた。


「ツンデレだからね〜しかも料理下手。」


笑うフランシスを見上げながら頭を整理するが、なかなか結論に至らない。


明確になったはずなのに、すごくもやもやする。

なんだろう、この気持ち。


「でも、すっごいマリアちゃんのこと好きみたいだよ。」


その言葉から30秒後、

ようやく結論に至った。



未確認物体X



これの正体は「恋」なんだ。


**********
ツンデレアーサーと鈍感親分妹。
やはり妹も鈍感でなければ、と。

ちなみにアーサーから親分への手紙の内容は『お前のことは嫌いだけど、妹はお前に似ず可愛くて優しくて、英国式ドレスも似合うほどの気品もあるから、俺がもらってやるよ!!』的な?

何て痛い子…orz

ちなみに、ドレスの件と痩せ薬の件は彼なりの愛情です。ドレスは新品、オーダーメイド。
誕生会でパブったのは、宿命です(笑)


2010/08/20


BACK


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ