ぬらりひょんの孫 半血の継承者

□第5幕
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 その夜、花開院本家の広間でぬらりひょんは自分の隣に詩翠を立たせ、奴良組全員に言った。

「こいつの顔を見て、古株のやつは分かった奴もおるかもしれん。だが、分からん奴の為に紹介しておく。ワシの娘、詩翠だ」

「「「えええぇぇぇぇぇ!?」」」

 驚きの声が響き渡るも、やっぱりと頷く連中もいた。

「てかよ……すっげー可愛いじゃねぇか……!」
「そうだな……美人っつうよりか、可愛いって言う方がしっくりくるな」
「詩翠ちゃん! 歳いくつー?」

 などと、笠を取った詩翠の素顔に皆が目を奪われていた。

「や、やべぇよ蓮……詩翠様またモテモテだぜ……?」

「当たり前だ。詩翠様は世界で一番美しいのだからな」

 少し下を向きながら照れている様な詩翠を見ながら蓮と黒はヒソヒソと部屋の隅で話していた。

「じゃあ紹介も終わったとこで、てめぇら! 今日は思いっきり呑んで騒げ!」

 ぬらりひょんの言葉をきっかけに花開院本家の広間は百鬼夜行のどんちゃん騒ぎに支配された。



 しばらく騒いでいると是光が様子を見に来て怒っていたが、妖怪達と秀元の式神に軽くあしらわれ、全く相手にされていなかった。



 その間もずっと妖怪達に質問責めをくらっていた詩翠をぬらりひょんが隣の部屋に連れていった。蓮や黒が同行しようとしたが、酔った妖怪達に絡まれ、抜け出せなくなっていた。



 ぬらりひょんに連れられ、隣の部屋の騒ぎとは打って変わり、綺麗な月が見える部屋に一人、秀元が座っていた。

「よぉ秀元。一緒に呑むかい?」

「ぬらりひょんと呑む酒もいいかもしれんなぁ」

 ぬらりひょんの誘いに笑顔で答える秀元に対峙する様にぬらりひょんは座った。

「……その娘も呑むん?」

「私は呑める……というより強いぞ?」

 秀元の子供っぽく扱われた言葉にムッとして、ちょっと強気に答えた詩翠はぬらりひょんと秀元のちょうど間くらいに腰をおろした。
 しばし雲一つない空の月を見ながら三人で呑んでいた。
「詩翠ちゃん……やっけ? 羽衣狐にやられた傷は?」

 秀元が思い出したように詩翠に傷のことを聞いた。

「大事はない。ちょっと寿命を削られたくらいだ」

 その返答にぬらりひょんは苦い顔をしていた。それを見逃さなかった詩翠はすぐに付け足した。

「でも大丈夫。父様よりかは長生き出来るから」

 ぬらりひょんは気を遣わせてしまったなと、苦笑いを浮かべながら話題を変えた。

「翡翠は亡くなったと聞いたが、悲しくはないのか?」

 そう思ったのは詩翠の凜とした姿を見たからだ。初めて会った時からそれを感じていた。

「悲しいよ。でももう50年も前の話しだし、それに……」

「それに?」

 秀元が聞いた。

「悲しくてもそれを受け入れないと……全てを受け入れることが、『生きる』事だと、私は思うから」

「強いなぁ。でも『西南の鬼』と『ぬらりひょん』の血を引いてる妖怪がおるなんてなぁ……何や失礼かも知れんけど、頭の形はぬらちゃんに似んで良かったなぁ」

 と、笑いながら言う秀元にぬらりひょんが「何でだ!?」と突っ込みを入れてる風景を見ていると自然と顔が綻んだ。
 そんな様子を見て、秀元はまた付け足した。

「まぁ何やね、目の前にスゴイ妖怪が二人もおんのに、ボク何もせぇへんとか陰陽師として失格かな?」

「フ……」

 それを聞いたぬらりひょんが一瞬笑い、秀元に酌をしようとしていた。

「?」

 秀元は一瞬分からない感じだった。そこでぬらりひょんは言葉を続けた。

「ワシはこれから人と交わる。陰陽師と酒を酌み交わすのもまた一興」

 そしてぬらりひょんは次に詩翠に視線を向け、

「なぁ、詩翠」

 と、問うてきた。それに詩翠は行動で答えた。ぬらりひょんの持つ酒を受け取り、正座でぬらりひょんに酌をし、次に秀元に酌をしようとした。

「ありがと」

 笑顔で詩翠の酌を受け、三人で盃を酌み交わした。

「ところで詩翠、ワシはもう京を出るが、おまえはどうする?」

 呑み終えると同時にぬらりひょんは詩翠に尋ねた。

「さっきも言った通り、一旦宮崎に帰る。待ってくれてる人もいるしね」

「そうか、足はあるのか?」

「そう。そこでちょっとお願いがあるんだけど」

 それを聞いたぬらりひょんは身を乗り出す勢いで詩翠に近づいた。

「何だ!? 何でも言ってみろ!」

 娘のお願いがよほど嬉しいのか、ワクワクしながら聞いてきたぬらりひょんは正にもう父親だった。

「私は蓮に乗っけてもらって行くから、その間黒と咲を奴良組で見てやってほしいの」

「なんだそんなことか、いずれワシの組に入るんだ。だから別に気にすることないだろ」

 ぬらりひょんは座り直し、そう言った。

「ありがとう。じゃあ私はもう行くね、蓮」

 名を呼ぶと隣の部屋から聞き耳をたてていたかの様なタイミングで蓮が入ってくる。
 そして縁側まで歩き、狛犬に変化した。

「じゃあ、終わったら江戸に行くから」

「あぁ。気をつけてな」

 詩翠は蓮に跨がると闇に消えて行った。

「じゃあ秀元。ワシも帰る」

「……いつか祢々切丸(ねねきりまる)還してな」

 ぬらりひょんの言葉に秀元が笑顔で返すと開いた扉から珱姫が髪を少し凍らせながら妖怪達と入ってきた。

「妖様〜」

 珱姫を抱き留め、笑顔を作り、魑魅魍魎の主は彼の百鬼夜行にこう告げる。

「いくぜ、てめぇら!! 京はしめぇだ! ワシの背中に並んで……ついてこい!!」

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