ぬらりひょんの孫 半血の継承者

□第2幕
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 時は夕刻。詩翠がちょうど京都に着いた頃、もうおよそ50年の月日が流れていた。それほどまでに時間がかかった理由は彼女の後ろにいる四人の妖怪達と、色々回り道をしてしまったことにあった。
 後ろの四人の妖怪達は詩翠の旅の道中に出会い、詩翠の人柄に惹かれ勝手に付いてきたモノ達だ。初めこそ詩翠は拒んでいたが、何度断っても彼らがずっと付いてくるのでもう諦めて一緒に旅をすることとなった。

(はぁ……、このままじゃもう喜平には会えないね……。覚悟してたこととはいえ、やっぱりまた自覚すると悲しいな……)

 そんな沈んだ詩翠を見て、彼女の足に寄りかかり自分の体をスリスリと甘えるように慰めているのは動物系妖怪の「すねこすり」だ。見た目はただの小さな犬で、話せもしないし、戦闘にも向かない。いつの間にか気付いたら旅に同行していた四人の中の一匹だ。
 詩翠はすねこすりを抱き上げ、「ありがとう」と言って抱きしめながら歩みを進めた。
 そんな様子を見ながら後ろで嫉妬心を燃やす二人の男の妖怪がいた。

「くっ! すねこすりめ! またおいしいとこを一人で持っていきやがって!!」
「今俺も行こうとしてたのに!! ……ちょっと勇気を振り絞ってる間にアイツはいつもいつも!」

 もちろん詩翠に聞こえない程度の声で叫んでいた。そしてその二人の様子を呆れた様に蔑む目で見ていた詩翠に同行している最後の仲間(?)の黒い髪をツインテールで縛り、18歳くらいの女妖怪がいた。ちなみに詩翠は50年経った今でも変わらず14歳くらいの見た目であった。

「どうしてあの二人はめげないのかしら……詩翠ちゃんを自分のモノにできると本気で思ってるの? まぁどっちも自分の気持ちにちゃんと気付いてない奴と精神ガキな奴だからそれが恋心だとは気付いてないんだろうけど」

 彼女もまた聞こえない様に呟いた。

「どうしたの? 蓮、黒、咲、早く行くよ?」

 詩翠が振り返り、歩みを止めていた三人に声をかける。
 蓮と呼ばれた少年は、銀髪で肌は白く、少し垂れ目気味で碧眼を持ち、身を包む服もまた白い陰陽師の様な服であり、18歳くらいの少年である。
 黒と呼ばれた少年は、蓮とは対照的な黒髪で、服は漆黒の袴を着ており、肌は普通だが瞳もまた漆黒で、歳は蓮と同じく18くらいだろう。
 最後は咲と呼ばれた先ほどの少女だ。彼女は丈の短い柄物の着物を着ている。多分機動性を重視しているのだろうが、妖艶な顔立ちに豊満な胸に生足を出している為、詩翠以上にある意味目立つ姿であった。

「はい! 今行きます! 一生付いて行きます!」
「はい! すぐ行きます! 死ぬまで付いて行きます!」
「……暑苦しいわね。待って、私も行くわ」

 二人は息ピッタリに返事をして、すぐに詩翠の後ろを付いて行った。咲はため息をつきながら一足遅く詩翠の後を付いて行った。

 下町の住宅街に着いた頃、空気が一辺した。
 そこらじゅうに妖気が満ちた。空はすでに暗くなっていたが、そこはもう"闇"の世界になっていた。

「!?」

 その空気に巻き込まれたのは一瞬にして理解した。詩翠はすねこすりを足元に置き、周りに気を配る。
 蓮、黒、咲も同様に臨戦体制を整える。
 そこで女性の悲鳴が聞こえた。数十メートル先からだ。視線を向けるとそこには赤ん坊を抱えた女性が妖怪に今にも取って喰われそうな状況だった。

「くっ!」

 詩翠は全力で地を蹴り、こん棒に手を伸ばした。間に合うか間に合わないかギリギリの間合い。しかし、そこで足止めをくらうことになる。

「!?」

 視線を落とすと魚が足に纏わり付いていたのだ。

「こんな時に!」

 こん棒を構え、大振りの一撃で吹き飛ばそうとした時、この"闇"の世界への侵入者が現れた。
 そのモノは目の前の妖怪を切り伏せ、女性の前に堂々と立っていた。そして、そのモノに続く様にわらわらと入ってくる大量の妖怪達────百鬼夜行だった。

「ぬ、ぬ、奴良組だあああああぁぁぁ!」

(あれが……?)

 しばし呆然と先頭に立っている男に目を奪われた。何か、惹かれる何かを感じていた。
 だが率直に言えば、見惚れている場合ではなかった。片目が髪で隠れる様な黒髪で長髪の男が詩翠に切り掛かってきたからだ。

「!?」

 気付いた時には既に遅い。反応が完全に遅れ、防御の体制も回避も間に合わないからだった。
 しかし、その刃が詩翠に届くことはなかった。

「詩翠様、俺より前に行かれたら守れないじゃないですか」

 黒だ。刃を体で受けても傷一つつかない体は既に人間のそれでは無かった。その巨体は最強の盾となり、詩翠を守っていた。

「ぬりかべだと!?」

 切り掛かったモノは一歩後ろに退き、距離をとった。黒は人間の姿に戻り、そいつと対峙した。詩翠のすぐ後ろには蓮と咲も来ていた。

「ほぅ。こん棒とは……珍しい妖怪だな」

 いかにもこの妖怪達の頭であろう男がゆっくりと歩み寄ってきた。周りの妖怪達は既にこの百鬼夜行に殲滅され、詩翠達は囲まれてしまっていた。

「アンタがぬらりひょん?」

 詩翠だ。

「そうじゃな。ワシがぬらりひょんだが……」

「ふぅん」

 気がつけば詩翠はぬらりひょんの目の前にいて彼をまじまじと観察していた。

「!?」

 瞬間、数十本の刃が詩翠の首元にあてられた。誰も見えなかったのだ。それに蓮、黒、咲が構える。

「大丈夫。気を張らなくていいよ」

 優しい詩翠の声が彼らを制止させた。

「……あんた、一体何者だい?」

「さぁね。それより宿に困ってるんだ。アンタんとこに泊めてもらえないかな?」

「き、貴様! 何を言って……」

「良い、鴉天狗。良いだろう。泊めてやろう。ワシについて来い。てめぇら、今日はもう終いだ! 帰るぞ」

 ぬらりひょんのの一言で妖怪達は刃を納め、踵を返して歩いていくぬらりひょんの後を付いて行った。
 立ち止まっていた詩翠に蓮、黒、咲が慌てて近付いてきた。

「詩翠様! なんて無茶を!」

 蓮が少し怒った様に言ってくるが詩翠はまるで気にしてないかの様にぬらりひょんの百鬼夜行の後を付いて行き、蓮達もため息をつきながら詩翠に付いて行った。

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