ShorT!?

□暑中お見舞い申し上げます
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「ユーリせんせっ」

「おっと、」


どんっ、と後ろから何かがぶつかった。
ユーリは、手に持っていた二つの甘い甘いカフェオレを零さないようにバランスをとる。

まだ一限目は始まったばかり。毎回決まってこの時間に保健室にくる、朱い髪の彼。


「危ねぇなぁ。」


そう一言つぶやくと、突進してきた温もりが離れた。


「へへ、悪ぃ悪ぃ。
ひゃー、保健室涼しいー…」

近くの椅子に座って、へらっと笑いながらそう言った。

「暑すぎるだろ、外ー!」
「夏は暑くねぇと、夏じゃねぇだろ?」

ユーリは、いつも通りの彼に小さく笑いながら言葉を返し、暖かいカフェオレを机に置いた。

「ほらよ。」


センキュ、といいながら彼はカップに手をかけ、何故かまた手を離した。


「んだよ、飲まねぇのか?」
「いや、あの…、ユーリ先生は暑くねぇの?今、夏だぜ?
こんな暑いのにホットって、危うく入れたてを飲むトコだったっつの…」

「あー、そうだったな。」

「夏っつったら、アイスだろー」と彼がブツブツ呟いている。


まあ、言われてみればそうだ。


彼はワイシャツのボタンを3つ開け、袖とズボンの裾を捲っている。いかにも夏。
カーテンの隙間から差し込む日差しも夏、そのものだ。


「まあ、でも…」
「ん?」
「俺は寒ぃし、いんじゃね?」
「節電しろ、この野郎。」


彼は勢いよく立ち上がり、クーラーのリモコンを手にとった。


「設定温度、21度って、ちょ、え!?」
「…教師の特権っつーことで。」


ユーリが悪びれもなくそういうと、彼は「ムキーッ!」と怒り出し、「こんなもの、こんなもの!」とリモコンを押す、押す。


ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴっ、


「これでよし。」


設定温度を28度まであげると気が済んだのか、椅子に座って少し冷めたカフェオレを飲みはじめる。


ユーリはいとも簡単に崩れ落ちた楽園に、悲しみを抱きながら冷めたカフェオレに口をつけた。


「ほら、せんせ。
夏は暑くなきゃ、だろ?

なんやかんやで夏が一番楽しいしな!」


そう彼が笑った。


その楽しそうな笑顔を見て、余計何かが熱くなったが、ユーリにはそれが懐かしく思えた。

そう思えた今この時が、なんだか可笑しくて、嬉しくて、ユーリは笑みを零す。



「…夏って楽しいな。」


「せんせ?」

不思議そうに首を傾げる彼。


「デカくなっても、忘れてやんなよ?」


そうユーリが言えば、余計わからないとでも言うように眉間にシワを寄せた。


「?…変な奴。」


「お子様にはまだ早ぇかもな。」

くしゃっと頭を撫でてやると、「やめろよ!」と嫌がる彼。

「さんきゅ、 ルーク 」

「は?…ユーリ先生もう熱中症?
なんか今日おかしーぜ!?」

「いたって平常だっての。」



(きらきらと笑うルークに、赤くなる俺の顔に)


(暑中お見舞い申し上げます)



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