鬼行文
□私と着物と驚異なる殺気。
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「お待たせ千鶴ちゃん!どのお着物がいいかな!?」
「どれも綺麗だから迷っちゃう……」
畳に並べられている数枚の美しい着物。二人が幸せそうに喋っていると水を指す様に、
「取り敢えず全部着てみればいいんじゃないの?」
「……何で殿方がいるのかしら?」
「あれ?ダメ??」
ピリッとした空気が走る。雪村はおどおどした表情だ。なんとなくこの二人は衝突しがいがちだ。多分、千はデリカシーを考えろとでも言いたいのだろう。
「じ、じゃあ私が着てみるから沖田さん見てくれますか?」
「うん。いいよ。」
(千鶴ちゃんは沖田に優しすぎるのよね。)
「そういう事なら、隣の部屋に行っててくれるかしら?」
「はいはい」
現代のファッションショーのようだった。
雪村は数枚の着物を沖田に着て見せた。沖田の反応はどれもいいんじゃないの、という反応だった。ただ、紅蓮の着物だけ息をのんだ。千は沖田の反応を見て赤の着物にしようと雪村に提案し、
「お千ちゃんが言うならそうしようかな」
「そうしましょ!」
「すごく綺麗だよ、千鶴ちゃん」
「ありがとうございます」
少し照れながら雪村は頭を下げた。千は直ぐにあと片付けに取りかかるので、また沖田を追い出した。
隣の部屋で沖田が溜め息をつくや否や、
「総司……巡察に行くぞ。」
「あれー?もうそんな時間かぁ。」
「俺は先に行ってるぞ。」
「はーい。」
ほんのちょっと斎藤が膨れっ面なのを沖田は見逃さなかった。
斎藤はそれだけ言い残すと部屋を出た。
やっと普段着になった雪村は疲れ顔ひとつせず、千を門まで送りに行くことにした。これから危ない隊務だと云うのに随分とはしゃいでいる二人だが、千は心の中で雪村が元気そうなのを見て半ば安心していたのだ。
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